残った一席
披露宴の結びが近づいたころ、高嶺菜緒は親族席に一つだけ空いた椅子を見つけた。
今日の撮影リストには、新婦と姉の二人写真がない。後輩が共有フォルダから古い版を印刷し、家族欄の最後の一行を落としていた。姉は海外からこの日のために帰国し、翌朝には空港へ向かう。二人は数年前まで疎遠で、打ち合わせで新婦が「言葉にできないから、写真だけ残したい」と頼んでいた。
残り時間は二十分。予定では、屋上で夕景の新郎新婦写真を撮る。雲が切れ、今しかない光が差していた。後輩は空席を見て、「姉にはあとで廊下で一枚お願いしましょう」と言った。
菜緒は会場の端にいる姉を見た。荷物をまとめ、先に帰ろうとしている。廊下で急いで撮る一枚では、依頼された写真にならない。
「屋上を五分短くします」
菜緒は新婦へ事情を説明し、姉を中庭へ呼んだ。二人は最初、並んでも肩の間に手一つ分の隙間を残していた。菜緒はポーズを指示せず、「お互いの今日いちばん好きなところを教えてください」とだけ言った。
姉が「笑うと、子どものころと同じ」と答えると、新婦は泣きながら笑った。その瞬間、隙間が消えた。菜緒は一度だけシャッターを切った。
後輩は小声で謝った。
「最新版の印が小さくて、気づきませんでした」
「見落とした一行を責めるより、古い版を選べる状態をなくそう」
菜緒は撮影リストを一つの共有画面に統合し、印刷時刻と確認者が大きく出る形式に変えた。家族写真だけは、当日の朝に依頼者本人と読み合わせる手順も加えた。
屋上の撮影は短くなったが、雲間の光は一枚に十分だった。宴がお開きになっても、二人の姉妹は中庭の写真を小さな画面で何度も見ていた。帰り際、姉は写真を送ってほしいと言い、新婦は「今度は母も入れて三人で撮ろう」と菜緒へ言った。後輩は古いリストを捨てず、どこで版を取り違えたかを書き込んで保存した。
菜緒は、数をこなす大規模婚礼班への昇格通知を閉じた。
そして翌月、二人の母も含めた小さな家族撮影の依頼を引き受けた。