残り一分を作る

八代は、酸素ボンベの流量つまみを最大まで回し、表示が《01:00》へ跳ねた瞬間に赤いボタンを叩いた。

開始から、まだ七秒だった。

円城と砂金の表示には《08:14》《07:58》が残っている。二人は目を剥き、遅れてボタンから手を離した。

このラウンドの規則は一文だけだ。

《自分の酸素残量が一分になった瞬間、最初にボタンを押した参加者を勝者とする。誤った時点で押せば失格》

「八分残っていただろう!」

円城が叫ぶ。

八代のボンベから酸素が勢いよく救命袋へ流れ込み、透明な袋を膨らませている。壁の数字は時計ではない。表示枠の隅には小さく《TIME AT CURRENT FLOW》と刻まれていた。

残り時間とは、ボンベ内の量を現在の流量で割った予測値だ。流量を一分間で全量が出る値まで上げれば、残量そのものをほとんど減らさなくても《残り一分》は作れる。

砂金は慌てて自分のつまみへ手を伸ばしたが、判定灯はすでに緑だった。

《勝者、八代》

「そんなのは残量じゃない。消費速度を変えただけだ」

「規則がリットルを指定していれば、その通りだった」

八代は流量を絞り、膨らんだ救命袋の弁を閉じた。酸素は捨ててすらいない。袋に移しただけで、彼自身の呼吸には十分残っている。

主催者は八分間、三人が数字をにらみながら押す時を疑い合う展開を望んだ。だから大きな分秒表示を中央に置いた。だが数字が何を計算したものかは、つまみの下に正直に書かれていた。

八代の拘束具が外れる。

彼は《01:00》のまま止まった表示を指し、二人へ言った。

つまみの周囲には毎分一、五、十五、五十リットルの目盛りがあり、救命袋は放出酸素を回収するため全員に一枚ずつ支給されていた。八代は道具を壊さず、警報も鳴らしていない。主催者が用意した最大流量と回収袋を、表示の計算式どおり同時に使っただけだった。

「時間は減るものだと思った時点で、もう遅い。これは作れる一分だったんだ」