水音は一階上から

賃貸管理会社の緊急窓口で、相馬風花がヘッドセットを外しかけた午前四時五十分、最後の電話が入った。

「子ども部屋の天井から水が落ちています。上は空室のはずです」

住所を入力すると、最上階の五〇六号室。上の階はない。夜間協力会社は一件出動中で、上司はチャットへ〈バケツで受けてもらい、朝対応〉と書いた。

風花は入居者が送った動画を止めた。水は照明の中央ではなく、窓側の壁に沿っている。管理画面の図面では、その位置に配管はない。だが二年前の改修完了図を開くと、屋上タンクから下りる給水管が窓側へ移されていた。管理画面だけが古い図面のままだった。

さらに同じ建物の履歴を調べると、一時間前、真下の四〇六号室から「壁の中で水音がする」という小さな相談が入り、様子見で閉じられていた。二件は同じ縦列に並ぶ。別々の電話が、一本の配管でつながった。

風花は上司へ、別々の相談ではなく共通配管の漏水疑いだと説明し、緊急出動へ切り替えた。管理人にも連絡し、建物全体ではなく該当系統だけを止められるか確認する。到着した作業員は、屋上直下の継ぎ手から水が噴いているのを見つけた。

電話の女性へ、止水で一時的に水が使えなくなることと、子ども部屋を移して待つことを伝える。水滴の音は、通話中にゆっくり弱くなった。女性は「朝まで持たせるしかないと思っていました」と言い、眠っていた子どもを別室へ運べたと知らせた。

後輩は、最初の四〇六号室の記録を開き直した。

「一件だけなら、朝でいいと思いました」

「一件のまま閉じると、二件目が別の顔で来る。建物は部屋番号どおりに壊れないよ」

風花は同一物件の夜間相談を自動で並べる表示を提案し、図面の更新漏れも修正依頼へ上げた。

契約更新書には、来月から一人夜勤を週四回へ増やす条件が書かれていた。時給は上がるが、今夜のような判断を一人だけに置く働き方には戻りたくない。

風花は余白へ〈夜勤は二人体制、週三回までなら更新〉と書き、署名して返送した。