氷点下の羽音
大型スーパーの閉店後、冷凍食品売場の温度が上がり始めた。外山冬馬が機械室へ着くと、店長はコンプレッサーの交換費用を心配していた。庫内からは、氷を削るような羽音がする。
冬馬は吸込圧の計器を見た。数値は低いが、コンプレッサー自体の音は一定だった。売場へ戻り、商品の奥へ耳を寄せる。冷気を作る蒸発器のファンが、厚い霜へ触れていた。
「霜取りが失敗しています」
店長は霜を溶かせば朝まで持つかと聞いた。冬馬は商品を別の冷凍庫へ移すよう頼んだ。表面だけ溶かして運転を再開すると、残った氷が割れてファンへ飛び、羽根を折る。さらに水が電装へ落ちれば故障が増える。
商品移動の途中、店員が溶けかけた箱を元の棚へ戻そうとした。冬馬は箱の表面温度と移動時刻を書いた札を一つずつ付けさせた。庫内が冷え直しても、一度温度の上がった食品の履歴までは消えない。修理班と売場班の境目で判断が抜けるのを、彼は機械より先に塞いだ。
電源を切り、受け皿を置いてから蒸発器を自然に温めた。氷が薄くなったところで、霜取りヒーターの線を一本ずつ測る。入口側の端子だけ反応がない。振動で固定ねじが緩み、接点が焼けていた。
冬馬は焦げた端子を切り、耐熱の新しい金具へ交換した。排水口に氷片が詰まっていないかも確認する。水が抜けなければ、次の霜取りで再び氷の塊になるからだ。
試運転では、先に霜取りヒーターだけを動かし、全体が均一に温まることを測った。その後で冷却へ切り替える。吸込圧はゆっくり戻り、羽音は風の音に変わった。
温度記録が規定まで下がる間、冬馬はファンの停止と再始動をもう一度行った。冷え切った後だけ接点が縮んで切れる故障もあるため、温まった状態の成功だけでは判定しなかった。
午前五時半、店員たちが商品を棚へ戻し始めた。店長は廃棄を免れた箱を数えながら、何度も頭を下げた。
冬馬が作業票へ焼けた端子を貼ると、館内放送用の電話が鳴った。今度は生鮮売場の製氷機が水を吸わないという。冷凍庫の朝が始まる横で、彼は濡れた手袋を新しいものへ替えた。