汚れ物は戻らない

聖都洗濯院では、洗い終えた包帯ほど危険だった。

病院から届く血まみれの布と、乾かした清潔な布が同じ扉を通り、同じ台へ積まれる。洗濯女が一日中働いても、翌朝には白い包帯から腐臭がした。病院は「洗い方が悪い」と銀貨を減らし、院長ロザンナは下働きの沙耶へ責任を押しつけた。

前世で工場の動線管理をしていた沙耶が使ったのは、一方通行という知識だけだった。

入口を汚れ物専用にする。洗浄槽を中央へ寄せ、反対側の窓を清潔な布の受け渡し口に変える。床へ一本の白線を引き、汚れ物の籠は線を越えない。洗った後の布は、元の入口へ戻さない。

沙耶は百人を説教せず、朝一番に自分で籠を運んだ。入口から槽、槽から干し場、干し場から窓口へ。途中で一度も引き返さない。後ろの者も同じ向きに歩くと、狭い廊下から怒鳴り声と渋滞が消えた。籠を落とす者も、その朝は一人もいなかった。床に残る血の足跡も、入口から槽までで途切れた。

「扉を増やさず、歩く向きを変えただけではないか」

院長は笑った。

けれど初日から、籠同士がぶつからなくなった。洗濯女の歩数は一人平均一万二千歩から七千歩へ減り、二百枚の包帯がいつもより一刻早く乾いた。白線の向こうに血の滴は一つもない。

翌朝、病院の検査官が二十枚を無作為に選び、熱した銀針を当てた。以前は十三枚から腐臭が立った。今回はゼロ。治療院へ送った患者四十人でも、包帯交換後の化膿は十一人から一人へ減った。

院長ロザンナは偶然だと言い張り、汚れ物の籠を清潔側へ置こうとした。百人の洗濯女が、誰に命じられるでもなく白線の前へ並んだ。

「そちらには置けません」

最年少の少女が言う。

「汚れ物は戻らない決まりです」

聖堂の大司祭カレドが、その光景を見ていた。彼は病院との新契約書を開く。年間二万枚の包帯、代金は従来の倍。ただし条件欄には「沙耶の動線を全院で採用」と書かれていた。

院長が印章へ手を伸ばす前に、大司祭は契約書を沙耶へ向けた。

「洗濯院長として署名を」

白線の向こうから、乾いた布の匂いが風に乗って届いた。