決勝前の二皿目
剣闘士ルガートは、王都大会の決勝直前に料理人マルテナを追放した。
「勝利の宴ならともかく、試合前の飯に口を出すだけの女はいらん」
新しい料理人は、英雄に相応しい食事を用意した。香草牛の厚切り、濃厚な乳酪、蜂蜜菓子。ルガートは満足し、二皿目まで平らげた。
開始の鐘から四分後、彼は膝をついた。
毒でも呪いでもない。胃へ集まった血のせいで、腕が上がらない。観客席から野次が降り、格下と見下していた相手の木剣が喉元で止まった。
マルテナが出していたのは、薄い麦粥と干し果実三粒だけだった。試合後には肉を山ほど食わせるくせに、前は空腹に近い状態を守らせた。ルガートはそれを出し惜しみだと思っていた。
彼女が管理していたのは味ではなく、食べる時刻と消化の速さだった。
控室には、マルテナが残した砂時計があった。だが新しい料理人は飾りだと思い、乳酪の皿をその横へ置いた。ルガートは敗因を毒だと訴えたものの、医師が示したのは健康そのものの胃だった。強すぎる食事に、試合が負けただけだった。
同じ午後、マルテナは市井の小さな訓練所で、若い選手たちへ椀を配っていた。金のない訓練所には高級肉などない。それでも選手たちは最後の走り込みまで足を止めなかった。
老教官が砂時計を確認し、深く頷く。
「食事を変えただけで、全員の持久時間が二割伸びた。大会料理人ではなく、競技調整官として雇いたい」
壁に貼られた契約書には、献立だけでなく練習時刻へ意見する権利も書かれていた。マルテナは初めて、厨房の外まで仕事として認められた。
夜、銀の馬車が訓練所前に止まった。敗北したルガートが、帽子で顔を隠して降りてくる。
「次の大会まで戻れ。お前の麦粥が必要だ。報酬は優勝後に払う」
「優勝しなかった場合は?」
「縁起でもないことを言うな!」
マルテナは若い選手たちの翌朝分を鍋へ入れ、砂時計を逆さにした。
「報酬も立場も勝利次第の場所へは戻りません」
彼女は落ち始めた砂を見ながら告げた。
「ルガート選手との専属契約は、決勝前に解雇を言い渡された時点で終了しています」