消印は嘘をつかない
国府田康平は、市役所の郵便室で契約社員として働いていた。郵便物は政治家の手紙でも、請求書でも、バーコードを読み取れば同じ一件になる。その公平さが好きだった。
文化会館の空調工事入札は、正午必着だった。十一時五十二分、契約課長が郵便室へ来て、受付印を一度借りた。理由は「窓口が混んでいるから」。康平は貸出台帳に時刻を書いた。
十三時六分、民間便の運転手が大きな封筒を届けた。宛名は契約課。追跡ラベルを読み取ると、端末に赤く『期限後』と出た。ところが課長は封筒を受け取り、表に十一時五十二分の受付印を押した。
「午前中に窓口へ届いていた。入力だけ遅れた」
康平は反論できなかった。ただ、配送会社のスキャン時刻は変更できない。集荷拠点を出たのが十二時四十三分。十一時五十二分に市役所へあるはずがない封筒だった。
開札では、その会社が他社より一万円だけ安かった。契約課は有効札として扱い、落札候補にした。
最終決裁の日、康平は郵便室の説明員として呼ばれた。課長は「受付処理の遅延」と書かれた顛末書を読み上げた。市長代理が契約書に印を押そうとしたとき、康平は配送追跡票と受付印貸出台帳を提出した。
「遅れたのは入力ではありません。荷物そのものです」
追跡票には、十二時四十三分に市内拠点を出発、十三時六分に配達完了。貸出台帳には、課長が印を持ち出した十一時五十二分。三つの時刻が一本の線で結ばれた。
課長は消印ではないから証拠にならないと言った。康平は、配送会社の電子消印です、と答えた。
会議室の画面には配送車の経路も表示された。十二時五十八分に市役所敷地へ入り、十三時四分に荷下ろし、六分に受領。封筒の追跡番号と受付印の写真は同じ荷物を示している。課長は午前中に同じ封筒を見たと言ったが、追跡番号は正午過ぎに発送店で初めて発行されていた。存在していない封筒へ、先に時刻だけが押されていた。
市長代理は契約書から印鑑を離した。正午を越えた二本の針が、決裁をそこで止めた。