煙突の根元に銀の雨除け

王立図書館では、雨のたびに同じ棚だけが濡れた。煙突の根元から水が入り、写本へ茶色い染みを落とす。屋根職人は瓦を三度葺き直し、司書長はついに煙突を壊す決裁を出した。

修理係のティリアは、屋根へ上がって雨跡を指でなぞった。前世で住宅診断をしていた彼女には、水が垂直に落ちず、瓦の下を横へ走っているのが分かった。

彼女が用意したのは薄い銀板だけだった。煙突の上側では瓦の下へ差し込み、下側では瓦の上へ重ね、左右も段ごとに重ねる。水の流れを必ず外へ返す雨押さえ――フラッシングである。

「銀で屋根を飾る余裕はない」

司書長は渋ったが、使った銀板は大皿二枚分だった。

試験のため、屋根の上から水桶五十杯を煙突へ浴びせる。以前は十杯目で天井から雫が落ちた。

十、二十、四十、五十。

館内で待つ司書たちは、乾いた机を見つめた。紙の上に置いた青い粉は、一粒もにじまない。

その夜、本物の豪雨が来た。風が瓦を鳴らし、街路の排水溝があふれた。それでも問題の棚は乾いたまま。翌朝、羊皮紙の湿度札は白を保ち、煙突の火も消えていなかった。

全面葺き直しの見積もりは金貨六百枚。ティリアの材料費は十二枚、作業は三時間だった。

濡れていた棚には、百年前の王が残した航海日誌があった。司書見習いは雨のたび夜通し布を替え、最後には「自分の番で失わせた」と泣いていた。ティリアは日誌を別室へ逃がすのではなく、その場所自体を乾かすと約束した。

水桶試験の最中、屋根職人は横殴りの雨なら入ると言った。そこで職人五人が板で風を起こし、煙突の四方から水を叩きつけた。銀板の重なりを流れた水は、瓦の表面へ戻って樋へ落ちる。天井裏へ置いた薄紙百枚は、角まで乾いたままだった。司書見習いが航海日誌を元の棚へ戻すと、競合職人はもう言い訳をしなかった。

司書長は煙突撤去の決裁書を破り、図書館の鍵束を彼女へ差し出した。

「別館を含め煙突は三十一本ある。すべて任せる。今日から王立図書館専属の建築保全官だ」