爆発する一秒を棚に上げる
魔導炉の点検員プリムラは、時間に細かすぎると嫌われていた。
鐘が一秒ずれただけで報告書を書き、歯車の交換日を守れと訴える。主任は彼女を地下四層へ追いやり、誰も読まない保管記録だけを任せた。
【固有スキル《単位収納》:数として区切れる同種の対象を、任意の単位で一枠に格納する】
釘を一本単位、油を一滴単位でしまえる。便利だが地味で、魔導師たちは「倉庫の秤」と笑った。プリムラが心核の寿命を残り七日と報告した時も、祭の停止を嫌う主任は日付の数字を七十日に書き換えた。彼女は原本を密かに複製した。
王都祭の正午、中央魔導炉が暴走した。
主任が交換期限を偽って使い続けた心核に亀裂が入り、破裂まで残り三秒。停止鍵は炉心室の内側、緊急転移は故障。爆発すれば王都の半分が消える。
主任は責任記録を燃やし、地上への昇降機を独占した。
「点検員なら炉と心中しろ!」
扉が閉まり、プリムラ一人が残された。
二秒。心核が白く膨張し、床の術式が裂ける。一秒。彼女の目には、いつも通り数が見えた。
釘も油も、一秒も、単位として区切れる。
収納対象が物質だけだとは説明されていない。
プリムラは心核へ触れず、炉を包む計時結界へ手を当てた。今から爆発までに存在する「最後の一秒」を一単位として指定する。
そして一度だけ、棚へ上げた。
鐘が鳴らない。
心核は破裂寸前の白さで止まった。炎も亀裂も進まず、爆発へ到達するための一秒そのものが世界から欠けている。取り出さない限り、炉は永遠に最後の瞬間へ進めない。
救援隊が地下へ到着し、停止鍵を回した。
燃やされたはずの保管記録は、プリムラが毎日複製して別庫へ預けてある。主任が昇降機から引きずり降ろされる頃、王都の大時計が遅れて正午を告げた。
主任の署名入り記録と、止まった心核を前に、魔導院長が深く頭を下げる。プリムラの職員証から「点検」の文字が剥がれた。
【職業が《魔導炉点検員》から《時庫管理者》へ書き換わりました】