片目のぬいぐるみ番

ルコは背伸びをして、片目の取れた狼のぬいぐるみを修理台へ置いた。

「夜になると、ベッドの下が笑うの」

母親も護衛も連れていない。首から下げた子ども用の身分札と、握りしめた銅貨二枚だけだ。

ぬいぐるみは《眠り番》と呼ばれる護符入りの玩具で、悪夢を追い払う。片目がなくなる前は、枕元に置くだけで朝まで眠れた。今は天井を引っかく音がして、毛布の端を誰かが少しずつ引く。大人に話すと夢だと言われるため、ルコは夜明けまで狼を抱き、眠らずに店の開く時刻を待ったらしい。ところが真珠の目を一つ失ってから、部屋の影が毎晩近づいてくるという。

店主ネネアは新しい目玉箱を見せた。青、緑、金。ルコはどれにも首を振る。

「前の子と同じ色がいい」

残った目は、ありふれた黒い木のボタンだった。高価な真珠ではない。ネネアが背中の縫い目をほどくと、内側の護符には幼い字で《ルコをひとりにしない》と書かれていた。魔力の源は宝石ではなく、左右そろった視線だった。

ネネアは自分の仕事着から黒いボタンを一つ切り取り、同じ高さへ縫いつけた。綿を整え、耳の裂け目も一針だけ閉じる。

「今夜まで待たなくても試せます」

店の明かりを消す。棚の下から、黒い影が舌のように伸びた。ルコの手が震える。

その瞬間、ぬいぐるみの両目が淡く光った。狼は動かない。ただ影へ向けて小さく唸り、床の闇を入口まで押し戻す。影は敷居を越えて逃げ、昼の光に溶けた。狼の腹へ耳を当てると、綿の奥で小さな鼓動のような音がする。左右のボタンは同じ黒色で、どちらが新しいかもう見分けられなかった。

ルコは狼を強く抱く。

「また見てくれる?」

ぬいぐるみの耳が、ほんの少しだけ立った。

ネネアは銅貨を一枚受け取り、もう一枚を返した。

「片目分です」

ルコは考え、返された銅貨を台の端へ置き直す。

「じゃあこれは、次に耳が取れたときの分」

小さな客が狼と帰る。ネネアが明かりをつけると、店は前より明るく感じられた。

ほどなくベルが鳴る。敷居の外に、別の玩具の丸い影が揺れていた。