片道配送のポトス

午前八時五十分。牧野蓮二は引っ越し業者を待ちながら、窓辺のポトスを段ボールへ入れた。仙台の柊木日和から届いた一枝を、水に挿して育てたものだ。蓮二は東京で伸びた蔓を切り、また仙台へ送り返した。三年間、同じ株が二つの街を往復していた。

鉢には白い傷がある。初めて日和の部屋へ運んだとき、駅の階段で落とした跡だ。日和は「割れてないなら、遠距離向き」と笑った。葉が一枚増えるたび互いに写真を送り、会えなかった月は新芽の数で埋め合わせた。冬に一度枯れかけたときは、夜通し通話をつなぎ、根を切る位置まで一緒に決めた。蓮二の窓は南向き、日和の窓は北向きで、同じ株なのに葉の色だけが少し違った。

今朝、彼女から〈もう育てられない。そっちの分も送って〉と来た。

蓮二は大阪への転職を決めていた。日和へ相談した夜、「東京にも行けないのに、大阪はもっと無理」と言われた。それから互いに、次に会う日を決めなかった。植物だけを送り合う関係に意味があるのか、考えるのにも疲れた。

集荷まで十分。蓮二は鉢を緩衝材で包み、片道の送り状を貼った。品名欄には〈観葉植物・返却〉と書く。

八時五十五分、日和から着信した。

「送り状、まだ書いてない?」

「もう書いた」

「住所、前のところじゃないから」

「転居したのか」

「東京に。昨日、鍵をもらった」

蓮二は手を止めた。

日和は〈育てられない〉の続きを送っていたという。画像の送信だけ失敗し、文だけ先に届いたらしい。再送された写真には、空の部屋と窓辺が写っている。壁には二人で選んだ棚の設計図。

〈二鉢に分けて育てるのは、もうやめたい〉

「大阪、いつから?」

「今日出る」

「聞いてない」

「東京に来ることも聞いてない」

インターホンが鳴った。引っ越し業者と宅配業者が同時に来た。

日和は新居から向かうと言った。ここまで四十分。退去立会いは九時十分で、待てない。

蓮二は鉢から一番長い蔓を一本切った。根のない先端を自分の荷物へ入れ、残りを東京の新住所へ送るよう書き直す。

「また増やすの?」と日和が聞いた。

「今度は、返ってこなくてもいいように」

九時。彼は集荷票へ署名し、ポトスを片道配送の台車へ載せた。