物干し竿の二本目
台風の翌朝、鹿島照真のアパートでは物干し台が倒れ、一本しかない竿が隣家の庭へ落ちていた。そこへ柊木謙吾が工具箱を抱えて来た。
「一週間泊めてもらう礼」
「まだ泊めるとは言ってない」
「昨日、玄関で寝た」
高校バレー部で照真はセッター、謙吾はリベロだった。決勝の最後、照真が上げた二段トスに謙吾は届かず、肩を壊した。謙吾は「無理な球を上げるな」と言い、照真は「拾えないなら任せるな」と返した。卒業後、同じ町にいながら会わなかった。
謙吾は勤め先の寮を突然出され、昨夜だけと照真の部屋へ来た。朝になっても鞄は玄関にある。
二人は曲がった支柱を起こし、錆びたボルトを外した。照真が台を押さえ、謙吾がレンチを回す。肩を庇う癖はまだ残っていた。
「そこ、上げすぎ」
「お前が低い」
「竿の話か」
「他に何がある」
新しい支柱は少し短く、水平が出なかった。謙吾は薄いゴム板を挟み、照真は足で台を押さえた。何度目かで気泡が中央へ来た。二人とも、決まったとは言わなかった。謙吾が支柱から手を離すまで、照真は足を退けなかった。肩の可動域を確かめるような視線にも、謙吾は気づかないふりをした。
次に、隣家から返された竿を洗った。表面には擦り傷が残り、伸縮部も固い。謙吾が「買い替えろ」と言うと、照真は油を差して何度も回した。やがて、もう一度伸びた。
照真は押し入れから未使用の短い竿を出した。
「二本も要るのか」
「シーツと服を分ける」
「一人で?」
返事の代わりに、照真は二本目を新しい支柱へ渡した。謙吾の濡れた作業着を洗濯機へ入れ、自分のTシャツと一緒に回す。肩のことも、最後のトスのことも、洗剤で落ちるわけではない。
昼前、二本の竿に洗濯物が揺れた。照真の服は黒ばかりで、謙吾の靴下だけが白かった。謙吾が鞄を持って出ようとすると、照真はベランダ用の洗濯ばさみ籠を差し出した。底に合鍵が入っている。
「落とすな。今度は拾えない」
謙吾は鍵をポケットへ入れ、鞄を玄関ではなく空き部屋へ置き直した。二本目の竿には、まだ干せる余白が残っていた。