狩猟女王を辞退する朝
春の王領狩猟会で、リーゼットには白馬が用意されていた。
幼い頃の落馬以来、鞍を見るだけで足がすくむ。それでも「辺境伯の特別な客なら乗れて当然」と言われ、手綱へ手を伸ばした。
マグヌス辺境伯が、その指の震えを見た。
「乗らない」
進行役が慌てる。
「ですが伯爵閣下、狩猟女王は白馬で先導する慣例です」
「彼女は狩猟女王になると答えていない」
マグヌスは戦場で退却を許さない冷徹な辺境伯だ。だがリーゼットが地面に近いほうが安心すると知り、自分も黒馬から降りた。
「歩くか。見学席へ行くか」
「森の入口まで歩きたいです」
「分かった」
彼は彼女の靴が泥へ沈まないよう、細い革覆いを渡した。勝手に履かせず、使うかどうかも待つ。以前、重い長靴では足首が痛むと言ったため、軽く作らせたものだった。
二人が徒歩で進むと、貴族たちは囁いた。
「辺境伯が女の歩幅に合わせるとは」
マグヌスが振り返るだけで、声は消えた。
森の入口で、進行役が檻に入った白狐を差し出す。
「リーゼット嬢には狐を放し、伯爵閣下と共に最初の矢を」
彼女は檻を見た。
「放すだけならします。でも射ません」
「狩猟会の主役が獲物を拒むのですか」
「私は主役を引き受けていません」
進行役はマグヌスへ助けを求めた。
「閣下からお命じください。皆が見ています」
辺境伯は檻の扉を開け、狐が森へ消えるまで待った。
「本日の狩りは終了だ」
「一人の気分で?」
「一人の同意を省いて始めた会だからだ」
リーゼットが驚いて彼を見る。
「見学だけなら、続けても構いません」
「では弓を置き、森を歩く会に変える」
マグヌスは全参加者へ命じた。
リーゼットは、会そのものを壊したようで不安になった。
「皆から狩りを取り上げたいわけではありません」
「何なら参加できる」
「足跡を探したり、薬草を見たりするなら」
マグヌスは即座に森番を呼び、弓の代わりに観察帳を配らせた。拒否のあとへ、彼女が選べる楽しみを残した。
森番が双眼鏡を渡そうとしたときも、マグヌスは重さを確かめさせた。リーゼットが首から下げたくないと言えば、手持ちの軽いものへ替える。新しい会の形にも、彼女の不快を我慢させる役目はなかった。
「白馬も称号も矢も、リーゼットが選ばなかったものを私の名で与えるな。彼女が歩くと言った道では、私も歩く」