王様を眠らせる宿

「魔物のあくびを瓶へ入れるだけ? 見世物小屋向きだな」

王立療院の試験で、エルグムは無能と判定された。

【技能:《あくび瓶》――魔物一体のあくびを瓶へ封じ、開栓時に最も近い覚醒者を朝まで眠らせる】

傷も病も治さず、敵味方も選べない。一瓶作ると翌日まで使えない。エルグムは森道で小さな宿を開き、眠り熊、枕梟、夢食い獏など、夜の魔物を客として迎えた。

宿の決まりは一つ。夕食後は大声を出さない。遅い客のため、鍋だけは夜通し弱火にかけた。

眠り熊のボロは炉の前で丸まり、枕梟は梁から毛布を落とす。旅人は最初こそ怯えたが、一晩泊まると「王都より眠れる」と笑った。

そこへ、不眠王リーヴェルが担ぎ込まれた。

十二年前、戦場で受けた呪いにより、一度も眠っていない。目を閉じれば心臓が止まるとされ、療院は覚醒薬で命をつないできた。しかし薬が尽き、王の影は本人より先に歩き始めていた。呪医は「次の日没まで」と告げる。

「眠らせれば死ぬ」

護衛が剣を抜く。

エルグムは王の影を見た。夢食い獏が鼻を寄せると、影だけが怯えて縮む。呪いは眠りを殺すのではない。王が眠るたび、影が悪夢を食べさせて起こしていたのだ。

彼は眠り熊の夕食を少し多めにした。満腹になったボロが大きくあくびをする。その白い息を細首瓶へ封じた。

王をベッドへ寝かせ、瓶を枕元で開く。

最も近い覚醒者はリーヴェルだった。王は反論する間もなく目を閉じる。影が飛びかかろうとした瞬間、梁から夢食い獏が降り、その黒い塊を一口で呑んだ。

護衛は剣を構えたまま夜を過ごした。

朝、リーヴェルは十二年ぶんの涙を流しながら目を開けた。白かった髪の根元に、元の黒が戻っている。ボロは隣の床でまだ眠り、王の手を枕にしていた。

試験官は「獏が呪いを食べただけ」と言った。

リーヴェルは寝起きの声で笑い、その者の療院章を外す。

「獏が食べられる夜を、誰が用意した」

王はエルグムへ王宮の客室鍵を渡した。

「今夜から城の寝台は要らぬ。私の主治医は、この宿の主人だ」