瓦礫の門も休業する

石動岳は城壁工事の現場で、壊れない道具として数えられていた。

黄土色の制服は背中が擦り切れ、腰帯には欠けた鏝と、休憩を取り消された印札がぶら下がっていた。雨でも雪でも工期は動かない。退職して三日後、端末には未読の緊急連絡が四十三件。「資材が足りない」「瓦礫が邪魔」「新人が逃げた」。最後には《責任感があるなら戻れ》とあった。

岳の無限収納は、入れた物を素材別に分ける。崩れた煉瓦は煉瓦、曲がった鉄は鉄、土砂は粒の大きさごと。彼は廃村の外れに収納門を置き、町の解体業者へ開放した。

業者は処分料を払って瓦礫を入れる。再生工房は必要な素材を代金と引き換えに取り出す。入口と出口の両方から少額が入り、岳が手を汚さなくても古材は新しい道や家へ変わった。

最初の月、彼は落ち着かず、毎朝収納の奥を点検した。だが無限の空間に山崩れはなく、分類棚は軋みもしない。やがて点検は週一度になり、ついには通知を見るだけになった。

《処分料・素材売却益:自動精算済み》

《生活費基準を達成。今月の受入停止が可能です》

岳は「停止が可能」を指でなぞった。

門の前では、解体職人が早上がりの相談をしていた。瓦礫を翌朝までに運び切る必要がないからだ。片方は娘の誕生日に間に合うと言い、もう片方は明るいうちに風呂へ入ると笑った。岳の収納は、彼だけでなく他人の夕方も返していた。急がない職場でも、道はちゃんと延びていく。

そのとき元現場長が門前に現れた。

「西壁が崩れた。今なら班長にしてやる。すぐ来い」

「行きません」

「お前が抜けたせいで現場が回らん」

「一人抜けて回らない現場を作ったのは、私ではありません」

現場長は日当を吊り上げ、宿舎の個室まで約束した。岳は擦り切れた制服の腰帯から欠けた鏝を外し、相手へ返した。

「今日は受け入れも止めます。門の休みです」

無限収納の門を閉じると、瓦礫の落ちる音が消えた。岳は丘の草へ大の字になり、雲が城壁よりゆっくり流れるのを、眠くなるまで見送った。