白紙のレシート

朝六時五十分、駅前コンビニのレジが、会計だけ済ませてレシートを吐かなくなった。

店長代理の円城寺小春は、出勤客の列を前に、若い店員が同じ交通系カードをもう一度かざさせようとするのを止めた。決済端末には「承認」と出ている。だがPOSには売上が入らず、画面は会計前へ戻っていた。

「もう一回はだめ。お客さんから二回取るかもしれない」

本部との通信障害で、決済の承認だけが先に通り、POSへ結果が返っていなかった。店員は「エラーなら払えていない」と思い込む。客も急いでいて、二度目を勧めれば応じてしまう。

小春は端末の承認番号を手書きの伝票へ写し、商品バーコードと時刻を記録した。通信が戻るまで、電子決済は停止。現金客だけを一台で通し、急ぐ人には商品を取り置く。売上を逃すと本部に叱られる。それでも二重決済を後から百件返すより、今十件断るほうが安全だった。

列の会社員が苛立って時計を見た。小春は言い訳せず、「カードで払った方は、そのままお持ちください。記録はこちらで確認します」と繰り返した。

十五分後、POSが復旧した。止まっていた承認がまとめて届き、画面に同じ金額が並ぶ。小春は自動で売上へ入れず、手書き伝票と一件ずつ照合した。二度かざした客が一人だけいたため、片方をその場で取消した。

本部から「復旧したら通常営業へ」と通知が来る。小春はすぐ電子決済を再開せず、最初の一件を自分のカードで試した。承認、売上、レシート。三つが揃って初めてレジを開けた。

七時二十八分、列が消えた。店員が白紙のレシートを丸めながら言う。

「店長代理、機械に詳しいんですね」

「詳しくないよ。お金は、失敗した方へ戻せないことがあるって知ってるだけ」

入れ替わりに配送トラックが着き、百個の弁当が運び込まれた。検品端末は、今度は商品を一つも読み取らなかった。

小春は手書き伝票の束を裏返し、新しい欄を引いた。朝のピークは終わったのではなく、形を変えただけだった。