百年目の初舞台

片喰マリアは九十九歳で、三年を買った。

若いころは舞踊家だったが、戦争と育児と介護で舞台を離れ、七十歳から町の子どもたちへ踊りを教えていた。百歳の記念公演が決まった直後、余命三か月と告げられた。

弟子たちは募金を集め、匿名市場から三年分を購入した。

移植後、マリアの身体は少し軽くなった。医師は、買えるのは時間だけで若さではないと言った。それでも彼女は杖を置き、毎日稽古した。

公演一週間前、契約会社の手違いで売り手一覧が届いた。

三年は、一人から買ったものではなかった。

〈十七歳・三日〉

〈二十二歳・一週間〉

〈三十五歳・一か月〉

〈六十八歳・半年〉

百四十三人の名が並んでいた。ほとんどが元教え子だった。初舞台で転んだ子、親に反対されて踊りを諦めた子、今は別の国で暮らす子。皆が、自分の未来を少しずつ切って贈っていた。

マリアは稽古場へ弟子たちを呼び集めた。

「返します」

若者たちは反対した。

「先生の百歳を見たい」

「私も見たい。でも、あなたたちの三日や一週間を床板にして、その上で踊りたくない」

「先生にもらった人生です」

マリアは首を振った。

「私は踊り方を教えただけ。生きる時間まで授業料にしないで」

返還には全員の同意が必要だった。百四十三人を説得するうち、予定日は過ぎた。劇場の契約も失効した。

マリアは百歳の誕生日、稽古場で小さな発表会を開いた。観客は弟子だけ。衣装も照明もなく、窓から午後の日が差した。

彼女は椅子に座ったまま、両手だけで踊った。鳥が飛び、子どもが走り、老女が海を渡る。三分の踊りだった。

終わると、誰も拍手をしなかった。泣いて手を動かし、同じ振りを返した。

翌朝、マリアは眠ったまま亡くなった。返還処理は間に合い、弟子たちへ日や週が戻った。

三十年後、かつて十七歳で三日を売った女性が、自分の百歳公演を開いた。演目の最後に椅子へ座り、両手だけで三分踊った。

マリアが買わなかった三年は、百四十三の人生へ散った。

そのどこかで何度も、百年目の初舞台が始まった。