百日目の赤ん坊

出産を一か月後に控え、娘は実家へ戻った。

母は何でも知っている顔で、肌着の畳み方や寝かしつけを教えた。

娘は聞くたび不安になった。

自分には、母のように迷わず子どもを育てられないと思った。

押し入れから、自分の百日祝いの写真を見つけた。

赤ん坊の自分が白い服を着て、母に抱かれている。

母は穏やかに笑っていた。

夜中の十二時、写真の赤ん坊が大人の声で話した。

「その人、さっきまで泣いてたよ」

赤ん坊は、写真を撮った日のことだけを覚えていた。

「お母さんが?」

「髪が抜けるって泣いて、着物の帯が締まらないって怒ってた」

「でも、笑ってる」

「撮る直前に、私がおならしたから」

娘は吹き出した。

写真の中の母は、完璧な母親ではなかった。

朝から赤ん坊が泣きやまず、祝い膳を焦がし、祖母と喧嘩し、夫へ八つ当たりした。

写真館へ着く頃には帰りたがっていたという。

「抱き方も慣れて見える」

「腕、震えてる」

よく見ると、母の指は赤ん坊の服を強くつかんでいた。

翌朝、娘は母へ写真を見せた。

「この日、泣いた?」

母は一瞬黙り、

「昔すぎて忘れた」

と答えた。

娘が赤ん坊から聞いた話をすると、母は顔を赤くした。

「写真は余計なことを言うね」

「お母さんも怖かった?」

母はしばらく皿を拭いた。

「今でも怖いよ。あなたに口を出しすぎて、嫌われるんじゃないかって」

母が迷わないのではなく、迷いを見せないようにしていただけだった。

娘は初めて、

「教えてほしいけど、命令はしないで」

と頼んだ。

母は、

「努力します」

と答えた。

出産後、娘は何度も泣いた。

赤ん坊が眠らない夜、母へ電話した。

母は正解を言わず、

「私も分からなかった」

とだけ言った。

その言葉の方が役に立った。

百日祝いの日、娘は赤ん坊を抱いて写真を撮った。

髪は乱れ、祝い着の襟も曲がっている。

撮影直前、赤ん坊が大きなくしゃみをし、娘は笑った。

完成した写真を母の写真と並べた。

夜中の十二時になっても、どちらの赤ん坊も話さなかった。

娘は少し残念に思い、すぐに安心した。

この日の不安も失敗も、将来の子どもへ説明する必要はない。

聞かれたとき、自分の口で、

「私も怖かったよ」

と言えばよかった。