皮だけの春祭り
王都の春祭りが終わると、柑橘の皮が荷車十台分捨てられた。
香りはよいが苦く、翌日には黒ずむ。処分場へ運ぶだけで銀貨三十枚、汁で街路を汚した罰金も加わる。
菓子組合長リシェは、掃除係の柊木奏が皮を拾うのを見て笑った。
奏は異世界の菓子職人だと名乗ったが、証明書がないため一年間、床洗いしかさせてもらえなかった。
「貧民でも食べぬものを売るつもりか」
奏は白い綿を残しすぎないよう薄く削り、細長く切った皮を湯で三度煮こぼした。湯を替えるたび、刺すような苦い匂いが弱くなる。
それから濃さの違う三つの糖蜜鍋へ、順番に移す。最初から濃い蜜へ投げず、一刻ごとに一段ずつ。皮が縮まず、蜜を吸って透けるのを待った。
「面倒なだけだ」
リシェは欠伸をした。
夜明け前、最後の鍋から引き上げた皮は、祭りの灯を閉じ込めたように琥珀色へ透けていた。
網で乾かし、砂糖を薄くまぶす。床に落ちていた時のべたつきはなく、指で摘んでも形が崩れない。
噛めば表面はしゃりりと割れ、中は柔らかい。鼻へ抜ける香りは果実そのものなのに、舌を刺した苦味だけが消えている。
組合の職人たちが一切れずつ取り、誰も二切れ目を遠慮しなかった。
リシェは苦味を探すように何度も噛み、ついに箱へ手を伸ばす。
奏は一月前、掃除場の小鍋で試作した箱も開けた。皮は黒ずまず、互いに貼り付かず、甘い香りがそのまま残っている。捨てる皮が、祭りの後も売れる菓子へ変わった。
捨てるための荷車代は銀貨三十枚。
完成した砂糖漬けは、一箱で銀貨二枚。荷車一台の皮から百箱取れる。
計算係が数字を読み上げるほど、リシェの顔から笑いが消えた。
掃除係の一年分の賃金より、皮一台から出る利益のほうが大きい。職人たちの視線も、もう床ではなく奏の手元へ集まっていた。
そこへ香りを追って入ってきた隣国の商人が試食し、祭り土産の印刷箱を机へ積んだ。
「まず五百箱。次の船までに用意できるか」
奏が答える前に、リシェは掃除係の札を外し、菓子職人の金札へ付け替えた。
捨て場へ向かっていた十台の荷車は、すべて工房の門へ引き返した。