眠り花輪の注文主
星降り祭の夜会で、聖女アンジェラが花輪を受け取った途端、床へ崩れ落ちた。
花の間には、吸えば眠り続ける夢芥子が混じっている。花輪には、オデットからの贈り物だという札が結ばれていた。
「私が邪魔だから、眠らせようとしたのですね」
アンジェラがかすれた声で言うと、侯爵令息フェリクスはオデットを睨んだ。
「聖女を永眠させようとした女とは結婚できない。マレヴィル家との婚約を破棄する」
オデットは、祭のために選んだ花言葉を思い出した。幸福を願ったはずの贈り物が、処刑台へ変えられている。贈る相手の笑顔まで想像した自分が愚かに思えたが、それでも頬を濡らす代わりに、花輪を束ねる紐を見つめた。
「薬草侯レナートに、封印票を読んでいただけますか」
旅装のまま夜会へ来ていたレナートが、花紐に縫い込まれた小さな札を引き出した。王都の薬用花は、注文主と配合を《封印票》へ残さなければ販売できない。
札へ魔力を通すと、文字が一度だけ浮かぶ。
注文主、聖女アンジェラ。配合、夢芥子三輪。用途、公開の場での短時間昏睡。
アンジェラは目を見開いた。すでに眠気を演じる必要さえ忘れている。床へ伏せていた身体も、いつの間にかまっすぐ起き上がっていた。
「夢芥子は三輪では死にません。注文どおり、芝居の間だけ眠る量です」
レナートは封印票を花輪へ戻した。
フェリクスはしばし沈黙し、やがてオデットへ都合のよい微笑を向ける。
「聖女は祭の重責で判断を誤ったのだ。婚約破棄は取り消そう。君も慈悲を示せば、立派な侯爵夫人になれる」
「慈悲を命じる方と、夫婦にはなれません」
オデットは自分の名が書かれた偽札をほどき、床へ置いた。
「私が贈ったはずの幸福まで、偽物にされたのです。ここへ戻る理由はございません」
レナートが、乾燥花の香りが残る手を差し出す。
「砂海の向こうに、まだ名のない薬草園がある。何を植えるか、自分で選びに来ませんか」
オデットはフェリクスに背を向け、眠り花輪を踏まずに越え、レナートの手を取った。