短い縄が奈落を結ぶ
峡谷の吊り橋が、荷馬車の重みで中央から裂けた。
旅商人と子どもを乗せた後半分は対岸に残り、こちら側では橋脚が岩から抜けかけている。谷底は雲で見えない。次の突風が来れば、残った板ごと二十人が落ちる。
荷運び人のロアンは、救援依頼の報酬箱を一度だけ開けた。
入っていたのは、腕より短い麻縄だった。輪も鉤もなく、ところどころ毛羽立っている。
【N:短い荷縄】
【最も近い二点を結びます】
「届くわけがない!」
対岸の商人が叫ぶ。
ロアンは縄を見つめた。距離で近い二点なら、足元の石同士しか結べない。だが切れた橋の両端は、もともと一つだった。どれだけ離れても、橋としては互いが最も近い。
彼は片端をこちらの主索へ結び、もう片端を谷へ放った。
縄は落ちなかった。
空中でまっすぐ伸び、長さを増しながら対岸へ走る。向こうの切れた主索へ自ら巻きつき、固い結び目を作った。次の瞬間、短い縄へ引かれるように、離れていた橋の両端が谷の中央へ戻り始めた。
板が一枚ずつ噛み合う。ちぎれた綱の繊維が撚り合わされ、抜けかけた橋脚まで岩へ深く刺さり直す。突風が谷を吹き上がったとき、吊り橋は以前より低く、強く張っていた。
橋が合わさる途中、片側に残った荷馬車が傾き、車輪が一つ宙へ出た。短い縄から細い枝縄が伸び、荷台と主索を結ぶ。積荷は一箱も谷へ落ちず、怯えた馬の脚元だけが先に水平へ戻った。
橋を直したのではない。そこを渡るために結ばれていたものを、丸ごと元へ戻しているのだとロアンは悟った。
橋板を踏むたび、縄は低く一度だけ鳴った。それは軋みではなく、結び直した箇所が安全だと告げる合図だった。
ロアンは最初に一人で渡り、対岸の子どもを抱いて戻った。それを見て、残った者たちも順に足を進める。
最後の荷馬車が渡り切ると、縄は元の短さへ縮み、橋の中央に小さな結び目として残った。
依頼票の最低評価欄が、音を立てて書き換わる。
【切断された構造と経路を完全再結合】
【最高位SSR《因果結索・離れた一対を結ぶ縄》――世界初の橋梁奇跡を認定】