砂漠の二重壺

砂都の市場では、朝に届いた葡萄が夕方には萎れた。

氷は王族しか買えない。果物商の娘は毎日、売れ残りを砂へ埋めていた。

「水もない国で冷蔵庫の話をするな」

商人たちは転移者の千景を笑った。

千景が使ったのは、素焼きの大壺と、それより小さな壺だった。二つを重ね、隙間へ砂を詰め、水を含ませる。上を濡れ布で覆い、風の通る日陰へ置いた。

それ以上は何も足さなかった。

三日後、市場の中央で試験の壺を開けた。外に置いた葡萄は皮が皺だらけで、指でつまむと汁が漏れた。二重壺の葡萄は張りがあり、房を振ると実が硬い音を立てる。

果物商が一粒噛んだ。

ぱちりと皮が弾け、冷たい果汁が顎へ落ちる。

「井戸水より冷えている」

温度計は外気三十八度、壺の中二十二度。桃は香りを保ち、葉野菜は折れば瑞々しい音がした。三日間の廃棄は、いつもの四割から二分まで落ちていた。

壺の外側には、砂から吸い上げられた水が薄く滲んでいた。風が通るたび表面が乾き、そのたび内側の熱を連れていく。千景は理屈を語らず、乾いた布と濡れた布を商人の腕へ巻いた。風が吹くと、濡れた方だけがひやりとした。翌日の予約札が、空の壺の前に十三枚並んだ。

試験用の胡瓜を二本折る。外置きは曲がるだけ。壺の中の一本は、ぱきんと割れて透明な水滴を散らした。見物客から歓声が上がり、まだ値札も付いていない野菜へ買い手が並んだ。

陶工はその場で壺の寸法を写し始めた。

「だが水を使う」

反対していた商人が言う。

千景は記録板を差し出した。一日一壺、椀二杯。捨てていた果物を育てる水の方が、はるかに多い。

夕刻、いつもなら値下げ札が並ぶ時間になっても、二重壺から出した葡萄には朝と同じ値が付いた。旅人が味見をし、残り六房をすべて買った。

市場長が空になった籠を見て、すぐ隣の陶工を呼ぶ。

「この大きさを百組焼け」

さらに千景へ、冷蔵庫建設の許可証ではなく、市場全区画の契約書を差し出した。

「砂都の青果保存を、君の二重壺へ切り替える」