砂金の分銅
赤土の陣で、勘定頭カンデ・ボロは天秤を吊った。
右の皿に王の新金貨。左の皿に、黒石の分銅。
針は大きく左へ傾いた。
傭兵隊長たちがざわめく。金貨は見た目こそ同じだが、中身の半分が銅だった。
玉座王ジャリ・ムサは、象牙の椅子からカンデを睨んだ。
「天秤が狂っている」
「昨日までは狂っておりませんでした」
「ならば今日、狂ったのだ」
明朝、王軍は北の塩砦へ攻める。先陣は異国の傭兵二千。王は勝てば本物の砂金で払うと約束し、今夜は前金として新金貨を配るつもりだった。負ければ傭兵が死ぬ。勝てば、王はまた理由をつけて払わない。
カンデは十二年、その帳尻を合わせてきた。
村から牛を取り、兵の死者を生者として数え、存在しない井戸の修繕費を記した。数字は人を殺さない。ただ、殺した者の手をきれいに見せる。
「もう一度量れ」と王が命じた。
カンデは黒石の分銅を持ち上げた。底には細い穴があり、そこへ砂金を詰めて重さを増してある。つまり天秤は本当に狂っていた。
ただし、王のためではない。
新金貨は規定の七割の重さしかない。分銅を重くしたことで、半分以下に見せた。傭兵が怒り、今夜のうちに王を捨てるには、それくらい露骨な嘘が必要だった。
敵の塩砦から来た使者が、傭兵隊の外で待っている。寝返れば未払い分を塩と金で払うという。カンデには、その仲介料としてラクダ十頭が入る。
正義ではない。正義は腹を満たさない。
王が剣の柄を叩いた。
「この男を捕らえろ。分銅を割れ」
近衛が近づく。
カンデは分銅を地面へ落とした。黒石が割れ、中から砂金がこぼれた。
一瞬、全員の目が金へ向く。
王は勝ち誇った。
「見ろ。勘定頭が細工をした。貨幣は正しい」
「七割だけは」
カンデは本来の分銅を袖から出し、天秤へ載せた。それでも針は王の金貨を軽いと告げた。
傭兵隊長が剣を抜く。王へではなく、王軍の旗へ刃を向けた。
カンデは砂金を一粒拾った。これが自分の値段だと思えば、笑えた。
塩砦から三つの太鼓が鳴る。傭兵隊長がそれに応え、王軍の進撃鼓を寝返りの拍子へ打ち変えさせた。