神の雷に字幕を出した日

大神殿の神託書記ラヴィエは、毎朝「神のお言葉」を清書していた。

だが大司祭が読む神託と、彼女が聞く響きは少しずつ違う。疑問を口にすると、信仰の浅い女として地下書庫へ追いやられた。

【固有スキル《神性翻訳》:人へ向けて発せられた神性を帯びる表現を、人が理解できる言語へ置き換える】

日照りの年、大司祭は孤児院の少女を祭壇へ上げた。

「神は『夜明けに生まれた最初の娘』を求めておられる」

ラヴィエが原文で聞いたのは、《夜明けに咲く第一の娘》。古語で花を娘と呼ぶ定型句だった。

「供物は暁百合です。人ではありません」

「神を疑う者は雷に焼かれる」

大司祭が儀礼刀を振り上げた瞬間、天井を突き破って雷が落ちた。彼は勝ち誇る。

「御覧なさい。神が供物を受け取る!」

だが雷は刀を避け、祭壇の周囲を七度巡った。轟音、閃光、焦げ跡。その全てが神性を帯びた表現だった。

ラヴィエは両手を広げ、雷そのものを翻訳した。

空に巨大な字幕が現れる。

《我は一度も人を求めていない》

二本目の雷が大司祭の宝冠を砕く。

《七年分の暁百合と救荒金を盗んだ者を、祭壇から下ろせ》

祭壇の床が割れ、地下に隠された金貨と乾燥した花が露出した。衛兵が少女を抱き下ろし、大司祭の腕をねじ上げる。

「これは偽の雷だ!」

三本目が彼の豪華な法衣だけを焼き、背中に最後の字幕を残した。

《その者が、偽りを語っている》

地下金庫からは、日照りの村へ送られるはずだった穀物券も見つかった。大司祭の印で私邸へ付け替えられている。神殿騎士は彼の指輪を外し、七年分の偽神託を読み上げた。雷は一件ごとに小さく鳴り、すべてを肯定する。

救荒倉が開かれると、孤児の少女は祭壇脇に残っていた一輪の暁百合をラヴィエへ渡した。人の命ではなく、それこそが最初から求められていた供物だった。

群衆が膝をついたのは大司祭ではなく、泣き笑いする少女の前だった。ラヴィエの筆記札へ金文字が降る。

【職業《神託書記》が上位職《神意直訳者》へ書き換わりました】