空の檻を囲む三つの焚火
魔獣使いフェルクは、契約獣を逃がした。
討伐遠征の途中、鎖を外した隙に白角狼が森へ消えた。狼は人を襲わなかったが、所属隊は「制御できない獣使いはいらない」と、空の檻と一緒に彼を街道へ置き去りにした。
日が暮れる前、三組の旅人が同じ場所で足を止めた。
狩猟団長アズラは弓を下ろし、矢筒をフェルクへ預けた。
「獣の足跡を読む者が欲しい。武器の管理も任せる」
雪国の魔女ネーヴェは、橇の隣に積んだ毛皮をどけた。
「北へ来ない? 狼が帰ったときの席も二つ空けてある」
宿場主ボルガは、街道脇に小さな焚火を起こした。
「旅をやめたいならうちで働け。今夜の部屋は、返事に関係なく取ってある」
三人は別々の勧誘状を差し出した。捨てられた直後のフェルクには、どれも眩しすぎた。
しかも木箱には狼用の干し肉、橇には爪を傷めない敷物、宿の裏庭には水桶まで用意されている。三人が欲しがっているのは技だけではなく、彼が大切にする獣ごとの暮らしだった。フェルクは空の檻を見ても、初めて空白だと思わなかった。
そのとき森から唸り声が響き、白角狼が飛び出した。口には幼い仔狼をくわえ、背後から巨大な熊が迫っている。
フェルクは契約笛を吹いた。だが音を外し、狼ではなく熊がこちらへ向きを変える。
「失敗した!」
彼は三人の前に立った。
「僕が引きつけます。誘いは忘れて逃げてください。また誰かを巻き込みたくない」
足音が散った。
全員が去ったと思った直後、三方向から火が上がった。
アズラは預けた矢筒から煙矢を放ち、ネーヴェは橇を横倒しにして仔狼の盾にし、ボルガは三つ目の焚火へ鍋の香草を投げた。熊が嫌う匂いが道を塞ぐ。
フェルクの外した笛の音は、実は白角狼へ「仔を守れ」と伝わっていた。狼は彼の足元へ戻り、頭を押しつける。
「逃がしたんじゃない。親を助けに行かせたのね」とネーヴェ。
「なら二頭分の席が必要だ」とアズラ。
ボルガは焚火へ薪を足した。
「宿の裏庭も広げよう」
空だった檻は使わないまま、三人は夜を越す。
弓、橇、宿の鍵。どこを選んでも狼たちごと迎える印が、三つの焚火のそばで消えずに残った。