窓を曇らせるスープ

初雪の日、陶子は喫茶店の窓際で待っていた。

妹の美弥が子どもを連れて来ることになっている。姉妹が顔を合わせるのは二年ぶりだ。喧嘩の理由はもう正確に思い出せない。ただ互いに謝る時機を逃し、そのまま季節が八つ過ぎた。

店の外で雪は斜めに降っていた。陶子は何度も時計を見て、そのたびカップの紅茶を飲んだ。すっかり冷めても、シナモンの香りは残っている。

約束から二十分後、美弥が入ってきた。五歳の息子、朔をマフラーごと抱えるようにしている。

「電車、遅れて」

「うん」

二人とも、その先が続かなかった。

朔だけがメニューを見て、「白いスープ」と指差した。三人分のクラムチャウダーを頼むと、深い器から湯気が上がり、窓ガラスを丸く曇らせた。

朔はスプーンですくうたびに息を吹きかける。小さな口から漏れた風が、湯気を揺らす。

「熱い?」と陶子が訊くと、朔は真剣に頷いた。

美弥がパンをちぎってスープへ浸した。そのやり方が、子どもの頃の母と同じだった。陶子も真似をする。パンは白いスープを吸い、指先まで温かくなった。

「お姉ちゃん、まだ端から食べるんだ」

美弥が言った。

「そっちこそ、貝だけ最後に残してる」

朔が二人の器を見比べて笑った。何がおかしいのか分からないまま、姉妹も笑った。

謝罪の言葉は、結局どちらからも出なかった。代わりに陶子は、次の休みに朔を動物園へ連れていく約束をした。

店を出る前、朔が曇った窓に指で三つの丸を描いた。外の雪景色が、その部分だけ透けて見える。

三人は同じマフラーには入れなかったが、店を出ると自然に肩を寄せた。コートの内側には、貝と牛乳の匂いがまだ温かく残っていた。

駅までの途中、朔は何度も口を開けて雪を食べようとした。美弥が叱り、陶子が笑う。二年前なら互いの言葉尻を気にしたはずなのに、今日は雪の上へ落ちてすぐ消えた。次の約束の日も寒ければ、また白いスープを頼もうと陶子は思った。