竜を母と鑑定した日

「一語しか出せない鑑定など、占い以下だ。無能は隊を去れ」

竜討伐隊長オズロはシェルドの外套から隊章を切り取った。

【本質鑑定:対象を最も強く定義する名詞を、一語だけ表示する】

剣を見れば『鉄』、兵を見れば『人』。弱点も能力も分からず、結果の意味さえ曖昧だ。シェルドは山村へ置き去りにされた。

ほどなく、討伐隊が追っていた翠竜皇ネフラが村の空を覆った。

ネフラは三日間、町や砦を襲わず、討伐隊の荷車だけを執拗に狙っていた。家畜を食うこともなく、逃げる村人には爪一本触れない。それでもオズロは「人間を弄ぶ残虐な竜だ」と叫び、弩砲を並べる。

荷車には竜の巣から奪った宝が積まれていた。金貨、王笏、宝石、古い鎧。隊員たちはそれを戦利品と呼び、何が竜を怒らせたのか考えようともしなかった。空ではネフラが何度も旋回し、悲鳴に似た短い咆哮を繰り返している。

シェルドは竜へ鑑定を向けた。

――母。

たった一語を、誰も信じなかった。

翠竜が急降下し、荷車を爪で裂く。飛び散った戦利品の中から、緑色の石が転がった。宝玉として持ち帰ったそれに触れる。

――子。

石ではない。魔力を閉じた竜の卵だった。

「撃つな! あれを返せば止まる!」

オズロはシェルドを突き飛ばした。

「竜に情があるものか!」

弩が放たれる。ネフラは翼で卵をかばい、矢を背に受けた。村を焼くには十分な炎が喉に満ちたが、竜は吐かなかった。卵が熱を恐れるからだ。

シェルドは矢の雨をくぐり、卵を抱え上げた。両手を頭上へ伸ばす。

「あなたの子だ。盗んだのは僕たちだ」

翠竜の巨大な爪が目前へ下りる。爪先はシェルドを潰さず、卵だけをそっとすくった。

ネフラは傷ついた翼を広げ、低い声で人語を響かせた。

『一語で、我を獣から母へ戻した人の子よ』

オズロたちが武器を落とす。竜皇はシェルドの胸に残った切れた隊章を見た。

『無能の印か』

翠の息が触れ、布切れは竜鱗の徽章へ変わる。

『ならば人の評価は改めさせよう。今日より、我が種と話す最初の鑑定士はそなたである』