紙兜の囮

獄犬の六つの頭が、紅林シオンの紙兜へ一斉に向いた。

《標的選択》

ボスは、装備耐久値が最も低い者を攻撃します。

《祭りの紙兜》

防御力:0

耐久値:1

牢獄の奥では、NPCの子供たちが鎖につながれている。攻略隊は獄犬を倒そうと最高耐久の鎧で固めたが、犬はその背後の囚人へ攻撃を続けた。子供たちの服の耐久値は五。騎士の鎧は千。標的は最初から、最も弱い者だった。

シオンが紙兜をかぶると、標的表示が全部こちらへ移る。

「走れ!」

六つの口から炎が噴く。シオンは牢の柱を縫って逃げた。紙兜に火が触れれば終わりだ。防御力ゼロだから、次の一撃は兜だけでなく本人も消す。

獄犬の爪を鎖の前で避ける。爪が鉄輪を切る。一つ。

次の頭を別の檻へ誘う。炎が扉を溶かす。二つ。

攻略隊も意図を理解し、獄犬を攻撃せず、囚人を外へ運び始めた。HPを削れば怒り状態になり、攻撃範囲が広がる。必要なのは討伐ではなく、狙いを一人へ集め続けることだった。

最後の子供が出口へ着く。シオンの紙兜は汗でふやけ、耐久値表示が点滅する。

獄犬が跳ぶ。シオンは兜を脱ぎ、空中へ投げた。

最も低い耐久値一の標的は、紙兜だけになる。六つの頭が小さな紙へ噛みつき、そのまま互いに衝突した。

兜は破れ、標的を失った獄犬は座り込む。首輪の裏には《収容者逃亡時のみ攻撃》と書かれていた。

《獄犬討伐失敗》

《収容者残数:0》

紙兜は、牢の子供が祭りの日に作ったものだった。捕まる直前、助けに来る勇者へ渡すつもりで隠していたという。

外へ出た少女が、破れた紙片を一枚拾う。

「弱くて、ごめんなさい」

シオンは首を振った。千の耐久値がある兜なら、獄犬は噛みついたまま離れなかっただろう。一で壊れたから、最後に標的だけを手放せた。

少女は紙片を新しい祭りの旗へ貼った。

旗に残った歯形を、少女は勇者の紋章より格好いいと言った。シオンもそう思った。次の祭りでは、同じ紙兜を全員でかぶることになった。

《囮貢献度:100%――最弱の防具は、最弱の者へ向いていた牙を引き受けました》