紫外の石を白くした膜
王宮の玻璃温室で働く庭師は、春になると顔を布で隠した。
透明な屋根は暖かいが、昼過ぎには肌が熱を持ち、頬が赤くなる。美容商人は香油を売りつけ、「日差しには油の艶が勝つ」と言った。ところが塗った庭師ほど苦しみ、温室の花の世話を辞め始めた。
薬舗の荷運びカロナは、前世で日焼け止めの検査員だった。彼女は香りの強い油ではなく、白い亜鉛鉱を精製して細かく砕き、乳状の基剤へ均一に混ぜた。肌の上へ薄い物理的な膜を作るためだ。
商人は笑った。「白くなるだけの泥だ」
カロナは光で紫に変わる《陽刻紙》を三枚、温室の窓辺へ置いた。一枚は裸、二枚目には香油、三枚目には白い乳液を薄く塗る。十分後、裸の紙と香油の紙は濃い紫になった。白い膜の下だけは、文字を書けるほど白いままだった。
庭師長の腕でも片側ずつ試した。香油側は光を集めるように熱くなり、白い乳液側は表面温度が六度低い。乳液は汗で筋にならず、布で押さえてもべたつかなかった。
美容商人は「白塗りでは貴婦人に売れない」と嘲った。カロナは粒をさらに細かくした第二瓶を取り出す。庭師長の頬へ伸ばすと、最初の白さは十数秒で薄れ、肌色だけが残った。花の香りでごまかさなくても、鉱物臭はない。
午後いっぱい温室で薔薇を植え替えた十二人は、いつものように頬を冷やす列を作らなかった。作業量は前日の二十八鉢から四十七鉢へ増えた。
翌朝、庭師長は左右の頬を鏡へ向けた。香油を塗った側だけ赤みが残り、白い乳液側は普段の肌色だった。布で拭えば乳液は落ち、毛穴へ白い粉も残らない。辞職を決めていた三人が、退職願を自分の手で破った。
美容商人は陽刻紙を手品だと言い張った。庭園伯は自ら紙を入れ替えて同じ試験を繰り返す。結果は一度目とまったく寸分違わなかった。
庭園伯は退職願の束を火鉢へ入れ、美容商人の香油を返却させた。そしてカロナの白い瓶に王家の薔薇印を押す。
「温室と騎士団へ五百瓶。王室の防光乳を君に任せる」