線香花火の質問

夏祭りの帰り、河原で一人、線香花火へ火をつけた。

火玉の向こうに、亡くなった友人がしゃがんでいた。

「一本だけ?」

「五本入り」

「けち」

友人は、線香花火が燃えている間だけ姿を見せた。

火玉が落ちると消え、次へ火をつければ戻る。

一本目。

「私の葬式、来なかったね」

いきなりそこからだった。

友人は病気を隠していた。

入院を知ったのは、亡くなる二日前。

見舞いへ行く勇気が出ず、葬儀にも仕事を理由に欠席した。

「怒ってる?」

「質問は一本につき一つ」

「今のを数える?」

「数える」

火玉が落ちた。

二本目。

友人が戻る。

「何で隠したの?」

「弱った顔を、あんたが笑うと思った」

「笑わない」

「昔、失恋で泣いた私の顔、写真に撮った」

「消したでしょう」

「保存してた」

火玉が落ちる直前、友人は舌を出した。

三本目。

「心残りは?」

「貸した本」

「そんなもの?」

「返してないでしょう」

「あなたが貸したの?」

「多分」

二人とも、題名を思い出せなかった。

笑っている間に火が消えた。

四本目。

友人の輪郭は前より薄い。

「本当に、それだけ?」

友人は少し黙った。

「葬式に来なかったこと、あんたが私より長く責めてること」

死ぬ前、友人は電話を待った。

怒ってもいた。

けれど、来なかった友達との時間まで嘘になるほどではなかったという。

「許してくれる?」

「また質問を使った」

「答えて」

「許すかどうかより、来なかった理由を生きてる人には言いなよ」

火玉が落ちた。

最後の一本。

何を聞くか迷っているうち、友人が先に話した。

「今度は、あんたが答える番」

「ルール違反」

「死者はずるいの」

友人は、最近何から逃げているのか尋ねた。

自分は、入院した姉からの連絡を避けていた。

命に関わる病気ではない。

それでも病室へ行けば、友人の最期を思い出す気がして怖かった。

「明日、行く」

「私の代わりじゃなく?」

「姉に会いに」

線香花火の火玉が小さくなる。

「さよなら、言わなくていい?」

「次へ行く人に、毎回さよならは重い」

友人は立ち上がった。

「じゃあ、またね。会わないけど」

火が落ち、河原は暗くなった。

翌日、姉の病室へ行った。

姉は元気で、見舞いの菓子へ文句を言った。

友人に借りた本は見つからなかった。

代わりに新しい本を一冊買い、姉へ貸した。

返却期限は決めない。

読み終えたら連絡して、とだけ頼んだ。

河原ではもう花火をしない。

最後の火玉は、消えた人を呼ぶ灯りではなく、生きている誰かのところへ行くための小さな合図として覚えている。