羽根の数だけ遠く

塔の屋根で、クスロの背中から十二枚の黒い羽根が生えていた。

翼になる前に抜けば人へ戻る。だが羽根は、抜いた者から二人の共有記憶を一つずつ奪う。メイザは規則を聞くなり、彼の背へ膝をついた。

「十二もないかもしれないな、私たちの思い出」

クスロは笑おうとしたが、嘴になりかけた唇から掠れた鳴き声が出た。

一枚目を抜く。

雨宿りした橋の下が消えた。なぜ自分の外套に青い継ぎ布があるのか分からなくなる。

二枚目。彼に剣の握りを教えた朝が消える。

三枚目。毒を半分ずつ飲んで生き延びた夜。

羽根を抜くたび、クスロの肩は人の形へ戻った。代わりにメイザの中で、隣にいたはずの時間が白紙になる。

五枚目で、彼の笑い方を忘れた。

七枚目で、喧嘩した理由を忘れた。

九枚目で、彼が左利きだと知らなくなった。彼のために右側を空けて歩いていた自分の癖だけが残り、理由のない空白がいつも隣にできた。十枚目を抜くと、火傷した彼の背へ薬を塗った夜が消え、指先にだけ、羽軸とは違う古い傷の感触が残った。

十一枚目を抜くと、クスロという音を聞いても胸が動かなくなった。

残る一本は心臓の裏から伸び、羽軸が赤く脈打っている。クスロは人の手に戻った指で、メイザの手首をつかんだ。

「それは抜くな。おまえが俺を仲間にした日の記憶だ」

「なら、いちばん効く」

「俺は助かっても、おまえの中から消える」

メイザは首をかしげた。目の前の男がなぜ泣いているのか、もう半分しか分からない。それでも背中の黒い異物が、この人を奪おうとしていることだけは分かった。

「知らない人でも、助けてはいけない理由にはならない」

最後の羽根を抜いた。

黒い翼の痕は消え、クスロは人として屋根へ倒れた。彼は何度もメイザの名を呼び、二人だけの合図を口にした。

メイザは丁寧に手を差し出した。

「立てますか。……ええと、あなたは?」

クスロが答えられずにいる間、風が十二枚の羽根を空へさらった。

メイザの右耳の後ろでは、十三枚目の小さな黒羽が皮膚を割って生えた。彼女はそれに気づかず、初対面の男へ、昔と同じ優しい笑顔を向けていた。