聖獣に選ばれた最強者

神殿の白獅子は、百年に一度だけ最強の守護者を選ぶ。

選定の日、白獅子は王子も剣聖も素通りし、薬売りのエルダ・サフの前で座った。

群衆がどよめく。

司祭が震える声で言った。

「聖獣があなたを選びました」

エルダは腰の袋を押さえた。

「やはり、隠しても力は分かるのね」

「何か心当たりが?」

「腕相撲で妹に勝ったことがある」

「妹君は?」

「十一歳」

「秘めた力は測り方を選ばないのでしょう」

白獅子はエルダの後をついて歩いた。

王子が尋ねる。

「どんな修行を?」

「毎朝、薬箱を背負って坂を上る」

剣聖がうなずく。

「負荷鍛錬か」

「途中で三回休む」

「限界を見極める高度な訓練!」

神殿会議では、エルダを王国守護隊長に推す声が上がった。

「魔王軍が来ても聖獣と共に戦える」

「私は剣を使えません」

「最強者は武器を選ばない」

「魔法も」

「存在そのものが武器」

「それ、仕事を教える気がない言い方では?」

エルダが席を移ると白獅子も移り、立つと立ち、扉へ向かうと先回りした。

司祭は涙を流した。

「これほど深い絆は初めてです」

エルダも感動した。

「言葉がなくても心が通じる」

白獅子は腰の袋を見つめていたが、誰も気づかなかった。

公開宣誓式が始まった。

「守護者エルダよ、聖獣へ最初の命令を」

「では、伏せ」

白獅子は立ったまま。

「右へ」

動かない。

「魔王を倒せ」

白獅子は大あくびをした。

王子が言った。

「聖獣は命令ではなく信頼で動く」

「では信頼を」

「具体的には?」

「最強者に聞かないでください」

白獅子は突然エルダへ飛びかかった。群衆が悲鳴を上げる。獅子は腰の袋をくわえ、引きちぎった。

床へ、乾燥させた魚が山ほど転がった。

エルダは思い出した。

「港町で猫よけに売る予定の品……」

白獅子は満足そうに食べ始めた。

老いた飼育係が頭を抱えた。

「この子、魚の匂いがすると誰にでもついて行くんです」

司祭が小声で尋ねた。

「選定は?」

「空腹時を避ける規則でしたよね」

最強の守護者は失格となり、薬売りは魚代だけ請求された。