肉まん二個、ひとつの袋
家へ帰りたくない日は、コンビニの前で肉まんを食べた。
理由を聞かずに付き合ってくれたのは、同じクラスの委員長だった。
その日は雪が降りそうな寒さで、委員長は肉まんを二個、ひとつの袋へ入れてもらった。
「袋、分けなくていいの?」
「温度が逃げる」
私たちは公園のベンチへ座った。
袋の中で二つの肉まんがくっつき、離すと皮が少し破れた。
「家、また喧嘩?」
委員長が初めて聞いた。
私はうなずいた。
父が仕事を辞め、母が昼も夜も働くようになった。家では誰も私に怒っていないのに、空気だけがずっと怒っていた。
「帰らなかったら、もっと心配する」
「分かってる」
「じゃあ、あと十分」
委員長は腕時計を見た。
いつも何でも時間で区切る人だった。
「十分钟で何が変わるの」
「肉まんが冷める」
私は笑った。
委員長の家も、最近うまくいっていないらしい。姉が大学を辞め、親と口をきかなくなった。委員長は家でだけ、何も決められない人になるという。
「学校では偉そうなのに」
「だから学校で偉そうにしてる」
袋の中で、肉まんの底が少し湿っていた。
「帰りたくないって言っていいのかな」
私が聞くと、委員長は考えた。
「言うだけなら」
「帰らなくても?」
「それは別」
正しい答えだった。
でも、帰りたくない気持ちまで否定されなかった。
十分後、肉まんはまだ温かかった。
「延長」
「何分?」
「五分」
「細かい」
五分ごとに延長し、結局三十分座った。
雪は降らなかった。
委員長は私の家の前まで送った。玄関の明かりがついている。
「入れる?」
「たぶん」
「無理なら連絡して」
「委員長として?」
「買い食い仲間として」
私は袋の底に残った薄い皮を半分渡した。
「最後の一口」
「もう冷たい」
「延長しすぎたから」
家へ入ると、母が台所で眠っていた。父は黙って毛布をかけていた。
何も解決していなかった。
それでも私は、帰りたくなかったと言えた夜のあとなら、少しだけ家の中へ戻れた。
翌日、委員長は肉まんを二個買い、今度は袋を分けてもらった。
「温度、逃げるよ」
「今日は帰れるから」
私たちは校門前で一つずつ食べ、十分で別れた。