花火の導火線を選んだ者

帝都建国祭の夜、エメレンツィア・ロッカは花火塔爆発未遂の犯人にされた。

婚約者ブレイズ・ミュールが、不発になった導火線を掲げる。

「彼女が短い導火線へ交換し、皇族席を焼こうとした。婚約は破棄、ただちに拘束せよ!」

空には祝祭の火花が残り、塔だけが黒く沈黙していた。エメレンツィアは導火線を見ず、発注契約の仕様欄を開いた。

「最終仕様を選べるのは、祭礼責任者一名です」

契約紙へ火花が落ちると、選択履歴が一行だけ現れた。〈三十秒線を五秒線へ変更――責任者ブレイズ・ミュール〉。彼女の名はどこにもない。

「私が変更したのは、お前の提案を受けたからだ!」

「提案権はありません。あなたが私を設計会議から外した日に失効しています」

一つの履歴が、爆発より鮮やかに嘘を裂いた。

五秒線に気づいたエメレンツィアは、点火直前に塔の魔力を遮断していた。だから事故は起きなかった。だが彼女が防いだ事実は、ブレイズの無実を意味しない。彼は成功すれば自分の演出、失敗すれば彼女の破壊工作にするつもりだった。祝祭の喝采さえ、誰かを焼くための覆いに使える人なのだ。エメレンツィアは夜空を見上げる。花火は一瞬で消えるから美しい。けれど人の信用まで、都合よく燃やしてよいはずがない。

ブレイズは声を潜める。

「事故は起きなかった。婚約破棄もなかったことにしよう。君が責任を半分負えば済む」

「五秒の導火線より、短い反省ですこと」

エメレンツィアが契約を閉じると、祭礼を視察していた帝国皇太子アルヴェント・ノーディスが一人で歩み出た。

「帝国の火工局は、失敗を隠す者でなく、点火前に止める者を求めている」

彼は彼女の前に立つが、連れ去ろうとはしない。

「次の建国祭を、あなたに設計してほしい。私の隣の席も空いているが、座る名目はあなたが決めればいい」

ブレイズが「皇太子に利用されるだけだ」と吐く。

エメレンツィアは不発の導火線を彼へ返した。

「利用されるかどうかを見抜く目はあります。少なくとも、罪を分けろと言う人よりは信用できます」

彼女は元婚約者に背を向け、夜空の下で待つ帝国皇太子の手を取った。