落とし物係の聖槍
「《拾得者》。仲間の落とし物を回収するだけだ」
闘技場の査定官は、カロムの技能を読み上げて欠伸をした。
【技能:隊員が落とした所有物を、五十歩以内なら直線で自分の手へ呼び戻す】
盗品は呼べない。手に持っている物も駄目。わざわざ落とした物を拾うだけなら、走った方が早い。槍聖ザンフェルも「戦場に子守はいらん」と背を向けた。
最終試験の相手は、金剛石の装甲を持つ巨像だった。試験中だけ、受験者と模擬戦役の槍聖は同じ隊として登録される。
ザンフェルの聖槍さえ、正面の胸板に弾かれる。巨像は痛みも知らず、観客席へ向けて腕を振り上げた。結界が割れれば、千人が潰される。
「槍聖様、あいつの向こうへ投げてください」
カロムが叫んだ。
「背を狙っても同じだ。全身が金剛石だぞ」
「刺さなくていい。落としてください」
ザンフェルは一瞬だけ迷い、聖槍を巨像の頭上高く投げた。槍は背後の砂地へ突き立ち、柄から手が離れたことで『落とし物』になる。
観客席の結界には、すでに蜘蛛の巣状の亀裂が走っていた。次の一撃まで十秒もない。査定官たちは退避門へ殺到し、先ほどまで無能と呼んだ少年の背中だけが、巨像へ近づいていく。
カロムは巨像の正面へ走った。
前世で見た巻き取り機は、荷を引く力より、途中に何があるかで仕事が変わった。技能は物を消して戻すのではない。必ず、最短の直線を飛ばす。
「回収」
背後の聖槍が砂を爆ぜさせた。
槍はカロムの手へ向かい、巨像の背中から胸へ一直線に走る。外側の装甲は硬い。だが背と胸の間には、魔力を循環させる空洞と、剥き出しの核があった。
白い穂先が胸板の内側を突き破り、巨像の正面から飛び出す。カロムは両手で柄を受け止めた。
巨像の光が消え、振り上げた腕が砂へ落ちる。
観客席が静まり返った。
ザンフェルは歩み寄り、カロムの手から自分の槍を受け取る。刃には、砕けた核の青い欠片が刺さっていた。
「私の槍術では倒せなかった」
「槍を拾っただけです」
槍聖は査定官を振り返った。
「聞いたか。今日から私の聖槍は、こいつの落とし物だ」
そして自ら隊員登録の血印を押し、カロムの名を隣に記した。
「拾得者。戦場で決して、私から離れるな」