触れる前に聞く救助

野戦看護師ノエは、背後から触れられると体が動かなくなる。

捕虜だった頃、腕をねじ上げられた記憶が残っているからだ。

訓練場で足を滑らせた日も、騎士団長ザイラスはすぐには抱き起こさなかった。

「肩に触れる。いいか」

「はい」

許可を待ってから、彼は外套越しに支える。普段のザイラスは、訓練で倒れた騎士へ「立て」としか言わない。だがノエには、手を置く場所まで先に告げる。

救護室では、冷たい金属器具を布で包ませていた。ノエが触診具の冷たさを嫌うと覚えている者は、彼だけだった。

その午後、国王立会いの救助演習が行われた。

高台から降ろされる役に、ノエが指名される。安全帯を締め、騎士たちが無言で彼女の体へ手を伸ばした。

「待ってください」

演習官が眉をひそめる。

「本番なら許可を待つ暇はない」

「でも、これは演習です。誰がどこへ触るか、先に言ってください」

「面倒な条件をつけるな」

ザイラスが演習場へ入った。

「言え」

騎士たちは慌てて、肩、腰、膝を支えると説明した。ノエは腰だけは嫌だと伝え、別の帯を求める。

演習官が苛立つ。

「団長閣下、このままでは予定が遅れます。命令して従わせてください」

ザイラスは安全帯を確認し、ノエへ尋ねた。

「続けるか」

「今日はやめます。思ったより怖いです」

「中止」

国王が立ち上がる。

「大勢を待たせて、一人の不安を優先するのか」

ザイラスはノエの留め具を、触れる前に一つずつ指して外した。

「演習だから優先する」

「実戦ならどうする」

「本人へ声をかける。意識がある限り」

ノエが地面へ降りると、ザイラスは水筒を足元へ置いた。手渡せば指が触れるかもしれないと考えたのだ。そんな配慮を、彼は説明も誇示もしなかった。

彼は全騎士へ向き直る。

「救助は拘束ではない。ノエがやめると言った。今日の演習は終わりだ。拒否した者を臆病者と呼ぶな」