貸しただけの女王

笹舟澪は女王のカードを蓼沼周へ差し出し、彼の二を受け取った。

「一分だけ貸す。所有権は渡さない」

周は鼻で笑い、駒形都和は困惑した顔で二人を見る。

規則は一つ。

〈全員が一度カードを交換した後、女王の所有者を解放する〉

開始時、澪は女王、周は二、都和は兵士。交換しなければ失格。二人は澪が女王を手放した瞬間、勝ち目を失うと思っていた。

しかし澪は、卓上の音声契約器へ向かって言った。

「蓼沼周に女王を一時貸与し、二を担保として預かる」

周は深く考えず、「受け取る」と答えた。契約器が二人の声紋を保存する。物理的にはカードが入れ替わり、交換ランプも緑になった。契約器の青い波形だけが、澪の言葉を一字ずつ保存していく。周が笑って頷いた瞬間、受領同意の印まで記録へ加わった。

『カード交換は所有権の移転を伴います』

「規則にそう書いていない。交換したのは占有場所。所有権は口頭契約で留保した」

都和が兵士を周の女王と替えようとする。周は女王を守り、代わりに澪の二を奪おうとしたが、澪はすでに交換済み。残り時間の末、都和と周は兵士と女王を交換した。

終了時、女王を手にしているのは都和だった。

彼女は安堵する。

「これで私が所有者よ」

澪は契約器の記録を再生した。

〈女王を一時貸与する。所有権は笹舟澪に留保。受領者、蓼沼周〉

周が他人へ渡しても、借り物の所有権までは移せない。都和が得たのは、周から引き継いだ一時的な占有にすぎない。

『所有者判定を開始します』

カード裏の登録チップ、交換記録、音声契約が照合される。

〈女王所有者、笹舟澪〉

首輪が外れた。

周は二を見つめ、都和は借り物の女王を握りしめる。

「交換したのに、渡していないなんて詭弁よ」と都和。

澪は二を卓へ置いた。

「手元にあることと、自分のものになることは違う。主催者が『持つ者』ではなく『所有者』と書いたから、違いが勝敗になった」

女王は都和の手に残ったまま、澪だけを出口へ導いた。手に入れたと思った金箔は、最後まで借り物の光しか返さなかった。