赦しを数える指
処刑人エルベクは、刃を囚人の首筋へ当てた。
斬らずに刃を返せば、一人を赦免できる。だがそのたび処刑人の指が一本、骨から消える。王はそれを忠誠の証と呼んだ。十人を救えば、もう斧を握れない。
エルベクの左手には小指しか残っていなかった。右手はまだ五本。これまで四人の罪なき者を逃がしたことを、誰にも知られていない。
今日、処刑台には六人の鉱夫が並んでいた。坑道で見つけた黒水晶を王庫へ渡さず、村の井戸へ沈めた罪だ。だが黒水晶は魔物の卵だった。王庫へ運べば孵化する。鉱夫たちは村を守るため封じた。
「一人ずつ執行せよ」
監督官が命じる。六人全員を赦せば、指はちょうど尽きる。
最初の男の首へ刃を当て、返す。右の小指が手袋の中で消えた。縄がほどける。
二人目。薬指が消える。
三人目の女は、エルベクの手を見て首を振った。「私を斬って。子供が二人いる者を残して」
「誰にも斬られる順番を選ばせないために、処刑人がいる」
中指が消えた。
四人目で人差し指、五人目で親指。斧は右手から落ちた。残る左の小指だけでは持ち上がらない。
六人目は少年だった。監督官が笑う。
「規則は刃を返すことだ。握れぬなら赦しはない」
兵が斧を拾い、エルベクの肩へ載せた。重い。柄を両腕で挟んでも、刃先を少年の首へ向けられない。
少年が囁く。「もう十分だ」
王庫の方角から、低い割れる音がした。別の坑道から運ばれた黒水晶が孵化し始めたのだ。監督官たちが空を見上げる。
エルベクは斧の柄へ歯を立てた。首と両肘で持ち上げ、少年の首筋へ刃を触れさせる。最後に残った左の小指で、刃を裏返した。
指が消えた。
六人の縄がすべて落ちる。鉱夫たちは黒水晶を封じる術を知っている。彼らは王庫へ駆け、孵化しかけた魔物を再び石へ眠らせた。
夕暮れ、エルベクは処刑台に一人残った。十本の指があった場所は、縫い閉じられた袖のように滑らかだった。
少年が戻り、彼へ水筒を差し出す。エルベクは受け取れない。
すると少年は蓋を開け、処刑人の唇へ水を注いだ。
「あなたの手はなくなった。でも、六人分の手が残った」
エルベクは答えず、空の両腕で斧を抱いた。もう誰も斬れない身体が、その日初めて赦免状になった。