退室通知のあと

御影が入った音声ルームには、最初十二人いた。

眠る前に黙って作業するための部屋で、話してよいのは最初と最後の挨拶だけ。中央の配信者はときどき時刻を告げ、それ以外は各自の生活音を小さく流している。

午前一時。御影は食卓で家計簿を開いた。天井灯は消し、流し台の手元灯だけを点ける。冷蔵庫のモーターが低く回り、窓には雨が当たっていた。

配信の向こうでは、鉛筆の音、キーボードの音、遠い換気扇が重なる。誰の音かは分からない。

一時十五分、退室通知が鳴った。

短い木琴のような音。十二人が十一人になる。

その後も、一人ずつ減った。通知。沈黙。通知。空調。通知。雨。

御影は数字を入力しながら、去っていく人数を数えた。月末の残高は思ったより少ない。引っ越しを考えていたが、今の家賃でもしばらく余裕はなさそうだった。

一時四十二分、参加者は三人になった。

誰かがコメント欄へ「お先に休みます」と書き、配信者が小さく「おやすみなさい」と返した。数秒後、木琴が鳴る。

二人になった。

御影と配信者だけかどうかは、表示では分からない。配信者が主催者として人数に含まれるのか、今まで気にしたことがなかった。

一時五十分、配信者は「ここまでにします」と告げた。机を片づける紙の音がして、最後に空調の低い風だけが残る。

ルームが閉じ、画面に「終了しました」と表示された。

御影は家計簿を閉じた。数字は何も改善していない。引っ越しの見通しも立たない。それでも、十二人がそれぞれの時間で退出し、最後には部屋が閉じるのを見届けたせいか、自分だけが夜に取り残された感じは薄かった。

別の配信を探さず、手元灯を消す。冷蔵庫はまだ回っている。雨は少し弱くなっていた。

終了画面には、参加時間が五十二分と表示されていた。誰と何をした時間でもない。それでも御影は、その数字を無駄と呼ばず、家計簿の余白へ小さく丸を一つ描いた。

退室通知のない自分の部屋で、御影は一人分の食器を流しへ運んだ。今夜はこの静けさから、急いで退室しなくてもよかった。