遠足の最後尾

「列を乱さないでください」

獣人学校の初等部教師ボルク・ハウは、遠足の日だけ声が大きくなった。二十匹の子どもたちは尻尾も歩幅もばらばらで、木の実を見つけては道を外れる。ボルクは点呼し、ほどけた水筒の紐を結び、いつも列の最後を歩いた。

森の吊り橋を渡るとき、先頭の子どもたちは歌を歌っていた。最後尾近くの小柄な兎族メロだけが、茂みの奥の鉄の光に気づく。

魔獣狩りの王、鎖猟師ガダムがいた。絶滅したはずの怪人で、獣人の魂を鎖へ変えて集める。二十本の黒い鎖が、子どもたちの背へ音もなく伸びた。

ボルクは遠足用の黄色い旗を地面へ立てた。

「前を向いて歩け」

子どもたちが振り返らない一瞬、彼は旗を横へ払った。

黒い鎖がすべて切れた。続いて何十歩も離れた鎖猟師の胴に、黄色い線が一本走る。怪人は自分が斬られたことにも気づかず崩れ、鎧も武器も枯葉へ変わった。魔王の軍勢を一振りで薙いだ元勇者の剣圧は、遠足旗すら曲げなかった。

メロだけが耳を立て、全部を見ていた。

広場では先頭の子どもたちが、もう弁当の話で騒いでいる。鎖猟師があと一歩早ければ、その笑い声は二度と聞けなかった。ボルクはいつも最後尾で、冷めたパンを食べる。メロは弁当箱の木の実菓子を一つ、先生の分として残すことにした。秘密への代金ではない。列の後ろを守る者にも、遠足を楽しむ権利があると思っただけだった。

ボルクは枯葉を靴で土へ混ぜ、切れた枝を元の茂みに戻した。黒い鎖の欠片を拾うと指先で粉にし、川へ流す。それから旗を掲げ、列の最後尾へ戻った。

「先生、いま悪い人を――」

「森には危ないものが多い。だから先生が最後にいる」

「先生って、すごい人?」

「点呼を間違えない程度にはな」

橋を渡り終えると、子どもたちは広場へ駆け出しかけた。ボルクが旗を軽く鳴らす。メロは誰より早く足を止め、仲間の袖を引いた。

森を救った一撃を誰も知らないまま、遠足は予定どおり続く。

教師は二十の頭を数え、いつもの注意を繰り返した。

「列を乱さないでください」