遺失物係
私の仕事は、持ち主を失った物に番号をつけることだ。
赤い鞄は百二十七番。銀の腕時計は百二十八番。片方だけの子ども靴は百二十九番。拾われた場所と時刻を書いた札を結び、棚の空いているところへ並べる。
窓のない部屋には、革と金属と古い香水の匂いが沈んでいる。換気扇を回しても、雨の日だけは湿った土の匂いが混じった。
私は朝、最初に時計を巻く。止まっている物も、動く物もある。持ち主がいないからといって、時間まで止める必要はない。次に鞄の中身を確かめ、硬貨や鍵を透明な袋へ移す。写真は裏返して保管する。顔がこちらを向いていると、番号を書き間違えるからだ。布製品は虫を避けるため密封し、金属は錆びないよう乾いた紙で包む。誰かが迎えに来る日まで、拾ったときの姿を保たせるのが決まりだった。
百二十七番の鞄には、口紅、折り畳み鏡、駅前の菓子店のレシートが入っていた。百二十八番の時計は、二時十三分で針が止まっている。百二十九番の靴には、乾いた泥が薄くついていた。
どれも、届け出と照合できるよう丁寧に記録する。帳簿は三冊目になり、棚は奥の壁まで埋まり始めていた。
ただ、持ち主が取りに来たことは一度もない。
入口の卓上ベルも、長いあいだ鳴っていなかった。私はときどき自分で押し、「お待たせしました」と言ってみる。棚の物は何も答えない。番号札だけが、換気扇の風で小さく揺れる。
午後、新しい品が届いた。青い石のついた指輪だった。石の裏に石鹸が残っている。私は布で磨かず、そのまま百三十番の札をつけた。
札の「拾得場所」には、川沿いの遊歩道と書いた。「時刻」は昨夜十一時。字が震えたので、もう一枚書き直す。
遠くでサイレンが聞こえた。次第に近づき、部屋の真上で止まる。入口のベルではなく、鉄の扉が激しく叩かれた。
「警察だ。地下室を開けろ!」
私は百三十番の指輪を棚へ置く。ここは駅の遺失物係ではない。私の家の地下だ。
持ち主は今朝、庭に埋めた。だからこの指輪も、正しく「持ち主を失った物」だった。