里芋の白い芯
石黒弘樹は、明日から職業訓練校の講師になる。二十七歳で講師と呼ばれることが、まだ冗談のようだった。
建設会社で施工管理をしていた五年間、現場の新人へ図面の読み方や安全帯の使い方を教えることはあった。だが、それは働きながら覚えさせる教え方だった。教室で二十人を前にし、九十分話すとなると、何から始めればいいか分からない。
弘樹自身、入社初日に『分からないことを分かった顔で進めるな』と怒鳴られた。その言葉だけは今も覚えているのに、講師になると分かった顔をしたくなる。
受講者は十代の新卒だけではない。会社を辞めた四十代も、外国から来た人もいると聞いた。弘樹より長く現場を知る生徒がいるかもしれない。質問に答えられず、若いくせにと笑われる場面まで想像してしまう。
訓練校からは初回用の教材が届いている。安全管理の定義、事故率、法令。弘樹は丸暗記して話す原稿を作った。読めば九十分になる。しかし、読み返すほど、自分でも眠くなった。
居酒屋「石段」で、店主が里芋の唐揚げを油へ落とした。表面の片栗粉がぱちぱちと弾け、薄茶色へ変わる。揚げたてから土に似た甘い匂いが立ち、半分に割ると白い芯から太い湯気が上がった。
「外だけ見たら、石みたいですね」
「中は見せたほうが早い」
店主は割った一つを皿へ戻した。
弘樹の部屋には、入社一年目に使っていた傷だらけのヘルメットがある。初めて現場へ出た日に、資材へ頭をぶつけてできたへこみも残っている。格好が悪くて、転職の荷物から外していた。
明日の最初の十分は、原稿を読まず、そのヘルメットを見せることにした。なぜへこんだのか、そのとき先輩に何を叱られ、何を教わったのかを話す。法令の説明はそのあとでいい。生徒に軽く見られるかもしれないし、時間配分を失敗するかもしれない。それでも、自分が知っているのは失敗しない人の話ではなく、失敗して帰れた人の話だった。
里芋の衣は歯に乾いた音を返し、中は舌で潰れるほど柔らかかった。塩の粒が溶けたあとも、白い芯の熱が口の中に残った。