金色のひびの持ち手

陶芸教室の傘立てで、佐治葉音の藍色の傘が、竹の持ち手の傘に替わっていた。

藍色の傘は祖父の形見だ。布は張り替えたが、白木の持ち手だけは昔のまま使っている。握るところに細いひびがあり、葉音は壊れないよう毎日そっと持っていた。

教室に残っていたのは、講師の宗形冬弥、生徒の臼田まほろ、粘土を届けた糸川聡。まほろは釉薬を片づけ、糸川は納品書へ印をもらった。宗形は「知らない」と言いながら、作業室の戸を閉めた。

竹の傘の石突には青い粘土が付いている。机には金粉を包んだ和紙の切れ端。作業室の棚だけ、傘一本ぶんの細長い空間が空いていた。

葉音が戸を開けると、藍色の傘は布を外され、持ち手だけが台の上にあった。ひびへ黒い漆が入り、その上を細い金色の線が走っている。

「勝手に直したんですか」

「勝手に壊したから」

朝、宗形が粘土箱を運ぶ際、傘立てを倒した。祖父の持ち手のひびが深くなったが、葉音は気づかず教室へ入った。宗形は自分の傘を代わりに置き、修理を始めたのだ。

「謝ればよかったでしょう」

「先生に、最後までそれができなかった」

葉音の祖父は、宗形が若い頃に陶芸を教えた人だった。葉音は祖父の古い年賀状で、宗形の名だけ見たことがあった。宗形は才能がないと思い込み、何も言わず工房を去った。祖父が亡くなってから、礼も謝罪も渡せなくなった。

「この傘を見て、先生の道具は壊れても捨てられていないって、少し安心した」

宗形は金の線から目を離さない。

「だから今度こそ、黙って逃げないつもりだった。途中までは」

修理には乾燥が要る。今日は竹の傘を借り、藍色の傘は一週間後に返すという。元通りではないことを、葉音は責めなかった。祖父も、傷を隠すより使った時間を残す人だった。

棚の湯飲みに茶を注ぎ、葉音は一つを宗形へ渡した。それも祖父が作った、少し歪んだ器だ。

「傘を返す日に、続きも聞かせてください」

葉音は熱い茶を一口飲んだ。金色のひびは、まだ乾かないまま静かに光っていた。