銅札入りの失敗パン

パン職人フェルドが市場で買ったのは、小麦でも酵母でもなかった。

火種魔族ニナラ。手首の焼印に銅製の値札を重ねると、命令された温度の炎を吐く。製パン組合長ホルクは「薪代が半分になる」と胸を張った。実際には、命令札の代金と罰金を組合が取り、店が儲かるほどニナラの焼印だけが深くなる契約だった。

「値札へ店印を打てば、今日からお前の窯だ」

ニナラは窯の横でうずくまり、以前の店で焦げた腕を隠していた。

フェルドは店印を持ち上げたが、値札には打たない。作業台の分厚い生地へ叩き込んだ。

「何の真似だ」

「銅は熱を伝える。焼印へ命令を運んでいるのは、この値札だ」

彼は値札を生地で包み、そのまま石窯へ放り込んだ。

ホルクが笑う。

「燃やしても印は残る!」

だがパン生地は膨らみ、銅板の細い溝へ入り込んだ。所有者名を運ぶ回路が酵母の力で内側から押し広げられ、ぱきりと割れる。

ニナラの手首から赤い焼印が消えた。

組合長は予備札を掲げた。

「なら最後に働け! この店を焼け!」

彼女は口を開いた。小さな火が生まれ、ホルクは勝ち誇る。

火は店ではなく、彼の予備札だけを灰にした。

ニナラは焼き上がったばかりの小さな丸パンを一つ見た。手を伸ばしかけ、代金を持っていないことに気づいて引っ込める。フェルドが紙袋へ入れるより早く、彼女は裏口から走り去った。フェルドは追わず、失敗した銅入りパンを窯から掻き出す。昼の仕込みは台無しだった。

夕方、予約客のための生地が発酵しすぎ、今度は窯の火が消えた。薪はホルクに差し押さえられ、一つも残っていない。

「焼かなければ全部捨てるの?」

裏口にニナラがいた。

「自由になったばかりだ。遠くへ行けたはずだ」

「行った。橋まで。そこで、私はパンを一度も自分のために焼いたことがないと気づいた」

彼女は値札のない手で窯へ触れた。淡い炎が石を均等に温め、膨らみすぎた生地が香ばしく焼けていく。

最後の一枚を出すと、ニナラは自分から革の前掛けを選び、紐を結んだ。

「ここで働くなら、給金と休みがある」

「それから味見も」

「毎朝一個だ」

「二個」

初めて交わした条件にフェルドが頷くと、床の銅片が焼きたてのパンの音に紛れて、からんと割れた。