鏡餅の二人
正月、親戚が集まると、姉は台所へ呼ばれ、弟は居間へ座らされた。
姉は高校生。
弟は小学生。
「女の子は手伝って」
「男は食べて大きくなれ」
毎年同じ言葉だった。
二人で鏡餅を割ろうとして、同じ欠片を左右から引いた。
餅が二つに分かれた瞬間、除夜の鐘の最後の音まで体が入れ替わった。
弟の体になった姉は、居間で何もしなくてよい代わりに、親戚から将来の仕事や強さについて質問された。
転んで膝を打っても、
「男の子が泣くな」
と笑われる。
弟が昨年から学校へ行きたがらない理由を、姉は少し知った。
泣く場所がなかったのだ。
姉の体になった弟は、台所で皿を運んだ。
料理ができると褒められ、
「いいお嫁さんになる」
と言われる。
進学の話をしても、
「遠くへ行ったら家が寂しい」
と笑って流された。
姉が親戚の集まりを嫌うのは、手伝いが面倒だからだけではなかった。
夕方、二人は廊下で会った。
「楽でいいね」
と言い合うつもりだったが、どちらも言えない。
弟は姉の口で、
「学校で泣いたら、皆に笑われた」
と話した。
姉は弟の声で、
「遠い大学へ行きたい。でも言うと、お母さんが寂しい顔をする」
と返した。
二人は入れ替わったまま、居間へ戻った。
姉の体の弟が、
「皿運び、男もやって」
と言う。
弟の体の姉は泣きながら、
「男の子も痛いときは泣く」
と続けた。
親戚は冗談だと思った。
母だけが二人の顔を見て、台所から布巾を持ってきた。
「じゃあ、全員一枚ずつ拭いて」
父も立ち上がった。
夜、寺の鐘が最後に鳴り、二人は元へ戻った。
弟はまだ涙の跡がある姉の顔を拭き、姉は弟の膝へ絆創膏を貼った。
その春、姉は遠い大学を受験すると家族へ話した。
弟も、学校の相談室へ行きたいと伝えた。
母は寂しそうにし、父は心配した。
それでも二人は、相手の言葉が途中で小さくならないよう隣に座った。
翌年の正月、鏡餅は大人が切った。
姉と弟は台所と居間を行き来し、同じ数だけ皿を運んだ。
体を代わらなくても、相手の席が楽だと決めつけないことはできた。