閉じない多数決
七瀬環は、左右から迫る鋼鉄扉の間へ首輪の留め金を差し込んだ。
金属が噛み合い、扉は人ひとり分を残して停止した。警報が鳴る。
「どけ、潰される!」
平良崎匠が叫ぶ。右室には彼と佐伏すみれ。左室には環と蛭田泰雅。二対二だったが、泰雅が終了直前に右へ移ろうとしていた。
壁の規則は一つ。
《扉が閉じた瞬間、人数の少ない部屋を焼却する。百秒後に生存していれば勝利》
泰雅が右へ入れば、左は環一人。扉が閉じた瞬間に焼かれる。
だから環は、多数派を作るのではなく、集計の瞬間を消した。
床の人数表示は扉が完全閉鎖したときだけ点灯する。半開きの今は左右とも《未確定》。環は最初の試運転で、その一秒の遅れを見逃さなかった。
残り四十秒。駆動モーターが唸り、留め金が白熱する。
「そんな小片、もたないぞ」泰雅が笑う。
「百秒も必要ない。あと三十七秒」
環は入室時から、首輪の構造を観察していた。爆薬より頑丈なチタン製の蝶番。主催者は逃亡防止のため、切れない部品を自分で与えていた。
天井の声が響く。
《扉の閉鎖を妨害する行為は認められない》
「規則に書いてない」
《左右いずれかの部屋へ完全に入れ》
「それも書いてない。私は左室にいる。留め金だけが境界にある」
残り十秒。扉が数ミリずつ留め金を削る。すみれが反対側から腕を伸ばし、自分の靴の鋼板も隙間へ押し込んだ。匠も続いた。泰雅だけが立ち尽くす。
零。
閉鎖完了の緑灯は最後まで点かなかった。処刑炎は出なかった。
《百秒経過。生存者四名。勝利条件を確認》
四つの首輪が外れ、同時に扉の力が抜けた。環は焼けた留め金を靴で蹴り出す。
泰雅が唇を震わせた。「多数決をしないなんて、逃げだ」
「規則は、少数を作れとは言っていない」
環は半開きの扉を手で押し広げた。
「扉が閉じた瞬間に殺すなら、その瞬間を来させなければいい。多数派になるより、集計そのものを止める方が確実よ」
監視窓の向こうで、主催者が初めて立ち上がった。