閉店後のレシート
文房具店のレジは、閉店後に一枚だけレシートを吐き出した。
そこには、翌日最初に返品される品と理由が印字されていた。
「青いペン 色が思ったより濃いため」
「封筒 寸法を間違えたため」
「はさみ 左手では使いにくいため」
店主は予告を読み、客へ買う前に確かめるようになった。
返品はほとんどなくなった。
ある夜のレシートには、
「誕生日カード 渡す相手が来なかったため」
とあった。
翌日、店主はカード売場を見張った。
夕方、小学生くらいの子どもが一枚選んだ。
表には大きなケーキ。
中へ、
「お父さんへ。今度こそ」
と書いた。
閉店間際、同じ子が戻ってきた。
「返品したい」
約束した面会へ父親が来なかったという。
電話もつながらない。
カードを見ると腹が立つから、お金に戻したいらしい。
店主は返品を受け取れば、予知どおりになる。
止めれば、子どもへ希望を押しつけることになる。
「返品できます」
店主は言った。
「ただ、文字を書いたカードはほかの人へ売れません」
「捨てる?」
「あなたが決められます」
子どもはカードを破ろうとした。
けれど「今度こそ」の文字で手が止まる。
店主は、店の奥にある小さな投函箱を見せた。
行き先が決まらない手紙を、一か月だけ預かる箱。
期限までに渡したくなれば取りに来て、来なければ店主が処分する。
子どもはカードを入れ、代金だけ受け取った。
二週間後、疲れた顔の男性が店へ来た。
入院して面会へ行けなかったこと、連絡先を失くしたことを話した。
子どもがこの店でカードを買ったと、別れた家族から聞いたらしい。
店主はカードを勝手に渡さなかった。
子どもへ連絡し、二人が店で会う日を決めた。
面会の日、子どもはカードを箱から出した。
すぐ父親へ渡さず、
「来なかった理由を先に聞く」
と言った。
店主はレジから離れ、店の外へ出た。
本音まで聞く権利はない。
翌晩、レジは白紙のレシートを一枚出した。
返品がなかったのかもしれない。
あるいは、渡せなかった物が、まだ返品にも贈り物にも決まっていなかったのかもしれない。
店主は白紙を投函箱の下へ敷いた。
未来を先に処理せず、相手が決めるまで預かる余白として。