閉店後の噴水
閉店後の噴水には、水音より先に掃除機の音が満ちていた。
地下街の中央広場で、宝石店の警備員が倒れていた。噴水は止まり、全店舗のシャッターが下りている。清掃員が床を磨き、非常灯だけが通路を照らしていた。宝石店からは展示用の首飾りが消えていた。広場には温かなカレーの紙袋が落ち、清掃員の無線から一度だけ「午後班」という声が流れた。
発見時刻は十二時十五分。警備員の腕時計も十二時十二分で止まっていた。刑事は深夜の犯行と考え、閉店後に残っていた清掃会社と夜間警備の社員を調べた。
夜間警備の責任者は、午前零時から別区画の巡回映像に映っている。清掃員たちも作業場所が記録されていた。唯一、昼間だけ勤務する宝石店の副店長には夜の入館権限がないため、早々に対象から外れた。
警備員の手には、宝石店で使う値札の糸が握られていた。副店長は前日の陳列替えで服についたものだろうと言った。裏口の鍵穴からは臨時カードの樹脂片も出たが、訓練用カードは管理室に保管されているはずだった。警備員は倒れる直前、無線で「昼の鍵が使われた」と言い残していたが、雑音のため「昼」が「白」に聞き取られていた。
広場の床には、まだ温かい紙袋が落ちていた。中身は職員食堂のカレー。清掃員の無線からは「午後班は西口へ」という声が一度だけ流れたが、責任者は録音された定型連絡だと説明した。
刑事は地下街の管理室で、当日の運転表を見つけた。そこには「十二時から十三時、防火区画閉鎖訓練」とある。訓練中は全シャッターを下ろし、噴水を止め、清掃機器の非常電源を試す予定だった。
暗いのは地下だからで、静かなのは客を退避させたから。発見時刻の十二時十五分は午前零時ではなく、昼の十二時十五分だった。
夜間警備責任者の映像は十二時間後のものだった。昼勤務の副店長には入館権限がないどころか、訓練責任者として全区画を開ける臨時カードが渡されていた。
刑事が臨時カードの履歴を読むと、十二時九分、宝石店の裏口が開いていた。
閉店後の噴水は、夜の街に残されたものではない。真昼を閉店後に見せるため、最初から水を止められていた。