開始させた人

馬場園千紗は、回答欄へ「主催者」と書いた。

成瀬野冴子が机を叩き、相楽井詩帆は青ざめる。

「開始ボタンを押したのは、あなたでしょう」

三人の前には、千紗の指紋が残る大きな青いボタン。壁の規則は一つだった。

〈このラウンドを開始させた一人を指名せよ。正しければその者を犠牲者とし、参加者を解放する。誤れば参加者全員を処刑する〉

開始直前、天井の声が千紗へ「押してください」と命じた。彼女が押すと照明が赤くなり、時計が動いた。誰が見ても答えは千紗だ。

だが千紗は、ボタンを押す前に時計の末尾が九から八へ変わるのを見た。ほんの一瞬。さらに青いボタンの裏には配線が一本もなく、押すと舞台用のクリック音が鳴るだけだった。

「これは開始したふりをさせる小道具」

『あなたの操作を合図に開始しました』

「合図を受けて実行した人がいる。ボタンを押した私ではなく、タイマーを動かした人」

千紗は天井カメラの脇の赤い送信灯を指した。彼女の指がボタンへ触れる〇・四秒前に点灯していた。主催者は映像を同期させるため、先に開始信号を送っている。

冴子が息を呑む。

「でも、主催者という名前で一人に定まるの?」

回答装置が音声の発信元を照合する。部屋へ命令を出し、開始信号を送った管理者アカウントは一つだけだった。

〈開始命令者を確認〉

〈管理者アカウントM〉

〈指名一致〉

主催者の声が荒くなる。

『押さなければゲームは始まらなかった。原因はあなたです』

「規則は『原因になった者』じゃない。『開始させた者』。実行権限を持っていたのはあなた」

決定音。三人の首輪が緑へ変わり、カメラの向こうで管理者用拘束環が作動する。

詩帆が千紗に尋ねた。

「押す前から気づいていたの?」

「時計が動いた時に。でも押さなければ、あの人は別の誰かへ押させる。証拠を完成させるために押した」

出口が開く。

青いボタンには、千紗の指紋だけが残っている。主催者はそれを罪の証拠にしたかった。だが配線のないボタンは、逆に彼が開始者であることを示す証拠になった。