集合写真の端

写真部の同窓会で、鷺沢壱成は百枚以上撮った。料理、恩師、笑う同級生。けれど本人が写った写真は一枚もなかった。

二次会の小さなバーで、明石沙耶が三人だけの集合写真を撮ろうと言った。安武晴登は壁際の椅子を寄せ、スマートフォンを空いたグラスへ立てかけた。

「十秒。昔みたいに変な顔するなよ」

壱成は戦地や災害地を回る報道写真家になっていた。来月も国外へ出る。帰国日は決めていない。

沙耶は企業広報を辞め、名前も顔も出さない編集の仕事へ移るという。元交際相手に居場所を追われ、長く続けたSNSを今夜すべて閉じる。

晴登は地元で結婚式を撮っている。春から店を畳み、病院の新生児写真を専門にする会社へ入る予定だった。

「みんな撮る場所が変わるね」と沙耶。

「沙耶は撮られない側になる」と壱成。

「やっとね」

高校時代、三人は「有名な写真家になる」と競っていた。文化祭の壁に名前を大きく貼り、互いの受賞数を数えた。晴登だけが一度も賞を取れず、卒業の日、部室の集合写真の端で半分切れていた。その写真を、今夜の恩師は額に入れて持ってきた。晴登は笑って受け取ったが、袋から出さなかった。

「今度は真ん中に座れ」と壱成が言う。

晴登は中央へ座り、沙耶が右、壱成が左に並んだ。タイマーの赤い数字が減る。

三、二、一。

シャッターが切れる直前、壱成のスマートフォンに海外通信社から着信が入った。彼は反射的に立ち、画面の外へ出た。写真には晴登と沙耶、その左に空いた椅子が写った。

「撮り直そう」と晴登。

壱成は電話を切り、首を振った。「これでいい。俺らしい」

沙耶は画像を見つめた。「私、この写真も消すよ」

「分かってる」

三人はその場で一度だけ共有した。壱成は保存し、晴登は印刷すると言い、沙耶は確認後に削除した。

店を出ると、それぞれ違う方向へ歩いた。翌朝、沙耶のアカウントは消え、壱成は空港から、晴登は病院の面接会場から同じ写真を開いた。

左端の空席だけが、三人の画面に同じ形で残っていた。